これまで2回にわたり、1997年以降の日本人の価値観の変化について、当社で行っているブランド調査、Brand Asset Valuator(BAV)のデータを通して見てきた。そして、10年余りで、日本人の「あきらめ派」と「苦闘派」が倍増し、「上昇志向派」は3分の1に激減してしまっているということがわかった。言うまでもなく、このような価値観のシフトは消費に大きな影響を及ぼす。わかりやすいのがいわゆる高級ブランド、ラグジュアリーファッションである。
この表は、主要各国での、ラグジュアリーファッションの所有率を、7つのセグメントごとに見たものである。当然のことながら、誇示する、見せびらかす、ことが行動の動機となっている「上昇志向派」における所有率が高くなっていることがわかる。従ってこの「上昇志向派」が減少すれば、当然ラグジュアリーファッションのマーケットが縮小することになる。
前回見たように、日本における「上昇志向派」はこの10年ちょっとで大きく減少し2010年は1997年の3分の1にまでなってしまった。それに従って、日本全体(7セグメントトータル)におけるラグジュアリーファッションの所有率も大きく減少してきたことがよくわかる。
「上昇志向派」が増えれば、ラグジュアリー市場も戻るのか?
それでは、これからたとえば日本の経済が復興するなどして、4Csでいうところの「上昇志向派」の数が増えれば、単純にラグジュアリーファッションを買う人が増えるのであろうか?事態はどうもそれほど単純ではなさそうだ。
1997年の調査において「上昇志向派」の人達におけるラグジュアリーファッション(外資11ブランド)の購入意向は18.5%であった、しかし、2010年の調査ではそれが9%に半減している。「上昇志向派」そのもののボリュームが3分の1になると同時に、「上昇志向派」の人達であっても、ラグジュアリーファッションを買いたいという気持ちを持っている人が半分になってしまった訳で、掛け算の乗数、被乗数両方が大きく目減りしているのが現状である。これは、ラグジュアリーファッションだけでの現象ではなさそうだ。上昇志向派の一つのステータスシンボルとも言える輸入車(17ブランド)についても同様に見てみると、これもやはり「上昇志向派」においても購入意向が減少していることがわかる。
つまり、誇示、見せびらかしを行動原理とする「上昇志向派」にとってもどうやらラグジュアリーファッション、あるいは輸入車は、そのためのアイテムとしての意味合いが薄れてきているように思えるのである。
次回以降は、価値観の変化の与える影響を他のカテゴリーにおいて見て行くと同時にマーケティングのあり方を考えて行きたい。