3.11は多くのものを可視化した

 前回までの4回で、1993年から蓄積されてきたブランドと消費者のデータベース、BAV(Brand Asset Valuator)をもとに、いかに日本の消費者の価値観が変わってきたかについて見てきた。こうして見てくると、今いろいろと叫ばれている消費者の変化は何も急に始まったことではなく、ましてや震災を契機に突然変化したものではないことがわかる。ラグジュアリーファッションを購入してきた「上昇志向派」の割合が減り、さらに彼らのラグジュアリーファッションに対する購入意向そのものが減退しているということも、もう10年以上前からの流れである。逆にデフレブランドとも呼べる価格志向のブランドを支える「苦闘派」層の増加も昨日や今日始まったことではないことも、このデータベースから読み取れた。

震災以降「買い控え」や「自粛」が消費を減退させるとして取り上げられたり、震災が消費者の価値観を変えたりという文脈で語られたものも多く見受けられる。あの震災によって被災地の生活はもちろん、私たちの日常が一変してしまったことは間違いない。しかし、こと一般消費者の消費行動に関して言えば、震災が一変させたのではなく、これまで流れとしてきていたものをスピードアップさせたか、あるいは皆が見過ごしていたもの、企業側からすればちょっと目を背けていたものを一気に可視化した、というのが実態に沿った言い方であろう。