【3】とにもかくにも「透明性」
企業がコミュニティの一員として「信頼」を得るためにはどうすればいいのか。とりわけ今の日本において、信頼性を担保するものは「透明性」の他にはない。我々のニューヨークの同僚は、皆あの9.11を経験してきた者達であるが、彼らから震災直後にポスト・クライシスにおけるコミュニケーションのあり方についてのアドバイスが寄せられた。その一つが「透明性」についてであった。食品などの安全性はもちろん、産業資材などの納期についても、可能な限り透明性のあるコミュニケーションが必要で、それは対消費者・取引先にとどまらず、社員・従業員に対しても行うべきであるというアドバイスをしてくれた。これは、まだ地震から10日ほど経った時に寄せられたアドバイスであったが、今から見て蓋し卓見であったといえる。
【4】ブランドもコミュニティの一員
繰り返しになるが、ブランドが真にコミュニティの一員になれるかが、最終的なゴールと言える。さきほどアメリカの9.11のことを書いたが、その時と今との大きな環境の違いはインターネット、特にソーシャル分野の進展である。9.11の時も多くの企業が、自社サイトを使って従業員や家族への連絡、ボランティア達へのコミュニケーションを行ったが今はソーシャルメディアがそれを担っている。あの日以来「可視化」されたものの一つがこのソーシャルメディアの役割であろう。デマと正しい情報の見分け方、拡散の仕方も含め、それを学びながら育っていくという「ソーシャル」の使い方を我々は学んだ、少なくとも学びつつある。このソーシャルの進展がさらにコミュニティの中でのブランドのあり方を決定づけようとしている。そこにはもう企業・ブランドと消費者という枠ではなく、お互い必要な情報や有用な価値を提供しわかちあう関係が進もうとしている。これも「可能か不可能か」ではなく「やるかやらないか」レベルの話である。
『スペンド・シフト』でガーズマが語る「スペンド」の変化は、単にお金の使い方(how we spend money)だけでなく、時間の使い方(how we spend time)や企業への信頼の寄せ方(how we spend trust)についてでもある。お金に関しては「価格がキーである」という一方、「(お金を払う)カウンターの向こうにいる人や企業がどのような人格をもっているか」がさらに重要であるという。彼は“value and values”という言葉を繰り返し使い、その両立がいかに重要であるかを説く。「消費者が払う1ドル札は、選挙で有権者が投じる1票と同じである」というガーズマの言葉が、今の日本の状況において深く響く。