可視化された「マーケティング3.0」の世界

 この連載のきっかけとなった、ガーズマ著『スペンド・シフト~希望をもたらす消費』も震災の前と後では読後感が変わってしまったことをこの連載の第1回で書いた。不況で苦しむデトロイトに敢えて移住し、そこをまさに「どん底のフロンティア(スペンド・シフト第1章)」として、気迫を持って再生に踏み出す人、そしてそれを支えあうコミュニティに姿が、まさに今の、これからの日本の姿と重なってしまったのである。

この『スペンド・シフト』の序文はフィリップ・コトラーが書いているが、コトラーの昨年の著書『マーケティング3.0』(朝日新聞出版)も震災後読み返してみてやはり読後感が変わった本の一つである。正直、『マーケティング3.0』を最初に読んだ時は、これはもう「マーケティング」とかなんとかいう「技術論」の世界ではないなと感じた。消費者を消費者として見ずに全人的存在と見て働きかけるような関係論、消費者の満足にとどまらず、世界に貢献して意味があるという企業活動のあり方など理想郷の話ではないか、果たして実現可能な世界であろうかと思えた。中島敦の『名人伝』に出てくる、弓の名手が弓を使わない「不射の射」にいく境地に、とうとうコトラーも至ったかなどと失礼なことを思ったりもした。しかし、震災後、多くの日本人、日本企業のした活動、そしてそれを見る消費者のあり方を見ると、このマーケティング3.0の世界は企業にとって「可能か不可能か」ではなく、「やるかやらないか」になったと感じた。ブランディングのあり方も同様である。