私が勤務する電通ヤング&ルビカムの米国親会社、ヤング&ルビカムで長年チーフ・インサイト・オフィサーを勤め、現在は同じグループのブランド・アセット・コンサルティング社社長であるジョン・ガーズマが2010年に著したSpend Shiftの邦訳がプレジデント社より『スペンド・シフト~希望をもたらす消費』としてこの7月に出版されることになった。
この原書の副題にHow the post-crisis values revolution is changing the way we buy, sell, and live(危機後の価値革命によって、私たちの購買習慣、販売習慣、生活習慣はどのようにかわったのか?)とあるように、リーマンショックを発端に、アメリカ中を襲った経済・金融危機を経て、消費者の価値観や行動がどのように変わったかを、デトロイトからダラス、タンパ、ボストン、ニューヨークなど全米で行ったフィールドワークと、ヤング&ルビカム社が1993年以降世界中で行ってきたブランドと消費者価値観の調査、Brand Asset Valuator (BAV)のデータを重ね合わせてまとめたものである。
この世界的危機によって日本でも株価が暴落したり、非正規雇用者のカットや派遣切りなどに見られる大幅な人件費圧縮が行われたり、さらにそれによる個人消費の落ち込みなど多大な影響があったことは間違いない。しかし、ローンが払えずに多くの人が家を失ったり老後の資金が消えてしまったりという深刻な事態が進展したアメリカの現状にはいくばくかの距離感のあったことも否めない。
日本でも不景気感はそこかしこに漂い、「格差社会」といったこの国の課題が浮き彫りになった契機とはなったが、「クライシス」という言葉が持つ迫り来るような響きにその時はそれほど共鳴しなかった、というのが正直な実感であった。しかし、そんな輪郭がぼけたような感覚も「あの日」までであった。