受刑者が発見した「口中調味」

あるとき、こんなことを言われた。

「先生! スライスチーズとブルーベリージャムを一緒に食べると、レアチーズケーキの味になるんですよ!」
「なに? それ? すごい発見じゃん! マーマレードでもイケそうじゃない?」
「いいっスね! 目をつぶって食べるといいんっス」

なるほど納得! 「口中調味」という日本独特の食べ方文化を最大限生かした、素晴らしい手法だ。

目をつぶって視覚情報を遮断することによって、味覚が研ぎ澄まされ、味わうことに集中できるのだ。

チーズケーキ
写真=iStock.com/kaorinne
「レアチーズケーキの味になるんですよ!」(※写真はイメージです)

そういえば、出張である女子刑務所を訪れたとき、素晴らしい技を見かけた。

コッペパンを片手に持ち、その側面に箸をプスプスと等間隔に突き刺して切り取り線を入れ、そこからパカッときれいに割って、サンド用のコッペパンにして具を挟んでいた。

見た目などどうでもいい男子に比べて、女子は美しく食べたいのだと感じた。

刑務所で取り入れた「イカフライレモン風味」

刑務所で働き始め、私が初めて新しく取り入れたのがこのメニューだった。

実は前職の学校栄養士時代の給食からのパクリである。学校では材料にみりんも入れていたが、すでに説明したように刑務所では使えない。そんな事情から、刑務所用にレシピをアレンジしなければならなかった。

ちなみに学校給食でのメニュー名は、「イカフライのレモン煮」だった。

少しだけ表現を変えたのは、パクリという後ろめたさと、「煮」と言いながら実際には揚げてからタレをかけているので、「煮てないだろっ!」というつまらない反抗心から「煮」を「風味」に置き換えたのだ。