分量や手順を暗記した

彼らは炊場のレシピを持ち帰ったり書き留めたりすることができない。それはルール違反になる。

だから、分量や手順を暗記し、部屋に帰ってからの自由時間にノートに書き留めるのだろう。

そこまでして作りたいと思ってくれるなんて栄養士冥利みょうりに尽きるじゃないか! と、パクリメニューでもうれしかった。

娑婆にはもっとおいしいものがある

彼の仮釈放が近いことは髪の伸び具合でわかった。卒業が近くなると、髪を伸ばすことができるからだ。

それに、炊場から外され、卒業に向けてのカリキュラムが始まるため、彼と会える機会はもう少ないことを示していた。

「もうすぐ『イカフライレモン風味』が出るかなあ……」

とつぶやくと、彼はこう言ってほほ笑んだ。

黒栁桂子『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)
黒栁桂子『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)

「マジっすか? ちょっとしたクリスマスプレゼントですね」

季節は12月に入った頃だったと思う。その程度で喜んでくれるなんて、私もうれしくなってつられて笑ってしまった。

娑婆にはもっとおいしいものがある。ここを出たらいくらでも自由に食べられる。

刑務所での生活なんて彼らにとっては黒歴史だろうし、ましてやムショメシなんて思い出したくもないだろう。そう思っていたけど、違うのかも……。刑務所生活の中でも数少ないよい思い出として、彼らの印象に残るような給食を出したいと思った。

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