とにかく小さいときから絵を描くのが大好きだった――。そんなタカラトミーの大塚美奈子さんの手帳は大判のダイアリー。手帳を開くと、右ページにカラフルなイラストがふんだんに盛り込まれている。
2003年、この手帳を仕事関係の施工業者から年賀品としてもらって以降、使い続けている。仕事中はいつでもどこでも常に持ち歩く。「これがないと仕事になりません。実際、仕事のときに忘れたことは一度もないですね」。
大塚さんは、「黒ひげ危機一発」と「人生ゲーム」などの家族向けホビーの企画開発を担当している。いつか企画にしたらおもしろいかな、と思ったことを、とにかくまず書いてみるというスタンスを取ってきた。過去には十分に練られていない企画をパソコンのフォルダに入れたこともあったが、結局、忘れてしまい、実現しないことも多かった。
「とりあえず手帳にすぐ書くことで、自分自身の頭にある事柄について整理できる。頭の中も空っぽになって、次の仕事に集中することができる」
左ページのスケジュール欄には、社内、社外、プライベートで色分けされたスケジュールが並ぶ。青色のタスクリストは終わったらどんどん消していく。
土日は基本的に空欄。自宅に仕事は持ち帰らず、手帳も触らない主義だ。「入社すぐの頃は家でも仕事をしていましたが、この手帳を使い始めてから、その日に考えたことや問題点を手帳にすべて書き出してから帰るので、区切りをつけられる。ONとOFFの区別がきっちりつけられるようになりました」。
ただ、自宅で風呂上がりや寝る前に思いつくことが多いので、携帯のメールにメモして未送信にしておき、会社で手帳に転記するスタイルをとっている。
ある日、裏と表があるリバーシ(オセロ)を見ていて「人生にも裏と表がある」というキーワードを思いつき、人生ゲームにも裏表をつくるアイデアを手帳に書きこんでみた。アイデアは苦難の末、実現し、発売1年で8万個の売り上げを確実にした。
大塚さんがいつも心がけているのは、仕事のメモでもスケジュールでもとにかく楽しく書くこと。「楽しくやらないと、おもちゃの企画は考えられない」と思うから、あまり細かいルールはもうけない。
コミュニケーションツールとして手帳を使うこともある。工場のある中国に出張した際は、色見本を手帳に貼り付けて、現地のスタッフと直接、交渉を行った。休憩時間にはイラストを描き合い、言語や文化の壁を越えて、良好な人間関係を築くことができたという。
むろん、ビジネスであるかぎり、開発スケジュールや予算はきちんと押さえなくてはいけない。納期や売り上げ目標などの数字がイラストの中にバランスよく埋め込まれていることもしばしばだ。
ビジネスとしての原則はきちんと踏まえたうえで、発想は自由に開放する。36色の色鉛筆と4色ボールペンで鮮やかに描かれた大きな手帳には、おもちゃという夢の種がぎっしり詰まっている。
注:オセロは登録商標です。