映像を確認してみると、意外な状況が…

そこに映っていたのは、先輩が夕食後残業しに帰社する姿とすれ違うのに気がつかず退社するAさんでした。すれ違った後、先輩はAさんの肩を軽く叩いて気がついたAさんにバイバイと手を振ったように見えたようです。

Aさんはこの場面を私に、「すれ違いざま先輩に肩を殴られ、振り向くと手を上げてさらに殴ってきそうだった。怖くなって泣いて走って帰宅した」と説明してくれていました。

最終的にハラスメントとは会社は認定しなかったものの、身体的接触があったことと、Aさんはそう感じたという事実が重視された結果、この先輩は会社から注意を受けました。そして先輩には復職したAさんとは関わらないよう異動処置が取られました。

ちなみにAさんは、復職するも成果も出ず、また、周囲とも打ち解けられず、数カ月後に退職となりました。

オフィスを離れる
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです

「頑張って」のニュアンスでみんなの肩を叩く上司

2例目の30代女性社員Bさんは、上司がしょっちゅうBさんの肩をなで回すと訴え産業医面談にきました。特に睡眠障害や抑うつ症状はなく、むしろ上司に対する怒りと嫌悪感を強く持っていたのを私は覚えています。Bさんはこの件を社内のハラスメントホットラインに上げたため、関係者へのヒアリング調査が始まりました。

そこで分かったことは、Bさんとその上司はBさんが入社時から10年来の上司と部下の関係(男女の関係なし)であること。1年前に上司が職場結婚してからは、休日に上司の家のバーベキューにBさんも参加するなど、家族ぐるみの付き合いもあるほど良好な関係であると周囲には映っているとのことでした。

「肩をなで回す」との行為について。部署のメンバーからは、その上司は「頑張って」や「よろしくね」というニュアンスでみんなの肩をよく軽く叩くが、誰もそれをセクハラとは思っていませんでした。Bさんの肩を叩く時も周囲は特別なものを感じず、また、その行為は昔から行われていたから、なぜ今になってセクハラと訴えるのかという声も聞こえてきました。上司自身も肩叩きの事実を認めましたが、突然のセクハラ告発に戸惑うばかりでした。