職場の人間関係トラブルを防ぐことはできるのか。外資系企業で年間1000人以上の社員と面談をしている産業医の武神健之さんは「職場で起こる人間関係のトラブルの背景には、コミュニケーションの欠如や誤解がある。身体的接触は行わないことはもちろん、職場は職場であるという意識を持つことが大切だ」という――。
頭を抱えるビジネスマン
写真=iStock.com/Yuto photographer
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本人と上司の認識がズレている

こんにちは、産業医の武神です。

面談ではクライエント社員のココロとカラダの健康をサポートすべく、どのような相談も全身全霊で対応していますが、そんな私が完全に脱力してしまうような類の相談もあります。その類の1つが、ハラスメントだと思ったけれども、結果として職場の人間関係のゴタゴタだったというものです。

今月はそんなお話をさせていただきます。

Aさんは20代の女性、約1年前に私のクライエントに転職してきました。産業医面談に来るようになったのは、入社半年以上たってからでした。Aさんは、新しい職場に上手に溶け込めない、先輩たちに聞いても仕事のやり方等を丁寧に教えてくれない、特に意地悪する人もいるなどの悩みを教えてくれました。結果として、仕事がなかなか覚えられない、いい評価がもらえないとクビになってしまう……と不安を抱いていました。

悩みや不安に加え、出社前の億劫感、そして遅刻などもあり、睡眠障害も出始めていました。心療内科に通うことを了承してもらい、本人の許可のもと人事に職場での様子を私が確認すると、「彼女はローパフォーマーで間違った採用だった」と上司は評価しているようだとのことでした。

「会社のエントランスで先輩に殴られた」

そんなAさんですがある時、泣くような顔で面談に現れました。聞いてみると、「先週、会社のエントランスで先輩の1人に殴られた」とのことでした。それ以降、通院内服治療で落ち着いていた症状が悪化。睡眠障害と恐怖感で3日ほど休んだとのことでした。

Aさんから状況を一通り聞いた後私は、早急に主治医を受診し、休職を含めて相談するようにお伝えしました。結果、診断書の提出があり翌日から休職となりました。

このことは、Aさんの了解のもと、会社のハラスメントホットラインに上げることとなりました。担当者が関係者にヒアリングするものの、殴ったとされる先輩女性とAさんのいうことに食い違いがあるため、最終的に人事がエントランスの防犯カメラの映像も確認することとなりました。