海外ガイドラインでベジファーストが言及されないワケ
これらの研究の結果としてはベジファーストや肉や魚を先に食べる食事療法は血糖値を下げ、HbA1cを改善し、体重を減らすのではないかと思います。
さて、これらのデータがあるにもかかわらず、海外の糖尿病や肥満のガイドラインではベジファーストのことは一切述べられていません。なぜでしょうか? それは十分なエビデンスではないからです。
例えば1つ目と3つ目の研究でベジファーストと比べた食事は先にご飯だけを食べるという内容です(※7,9)。これらの食事は一般的でしょうか? いや、お米だけ5分間食べ続けるような食事をしている人はいないでしょう。
ですので、お米だけ5分間食べ続けるような食生活をしている人にとっては、「ベジファーストで血糖値が下がりますよ」という指導は正しいのかもしれませんが、その他の人にとっての効果は不明です。
また、2つ目の研究は対象が従来食事療法ではあるのですが、詳しく見てみるとベジファーストの指導を受けた人はベジファーストだけでなく、「1口20回以上噛んで食べることを推奨し、オリジナルの教育用パンフレットを用いて、野菜、きのこ、海藻類などの食品の摂取量の増加を促すこと」が加わっています。
そして実際、食事の変化量としては白米が大きく減り、緑色の野菜の摂取量が増え、果物が減っています。
「食事の順番を替えるだけ」で血糖値が下がったわけではなく、よく噛むことや食事内容の変化が影響している可能性が考えられます。また、この研究では体重の変化はありません。
最後に4つ目の研究では確かにベジファースト(オレンジ色)は体重が減っているのですが、その背景に摂取エネルギー量が減っています。そしてそれはバランス食指導のグループC(灰色)も同様です。
「有名なこと=正しいではない」
これらの結果をもってベジファーストは、他の食事療法より血糖値を下げ、体重を減らすというのはさすがに言いすぎです。
ベジファーストは最初に白米だけ食べる食習慣と比べると血糖値の上がりが抑えられ、また野菜をとることを意識すると、食事摂取量が減ることで体重が減る可能性があります。ただ、研究のデザインなどが十分ではなく、その結論は限定的です。
結局のところ、ベジファーストはいくつかの論文による報告しかなく、結果が限定的であるわりには世間でまるで健康の常識のように扱われています。
また、いずれの内容も短期的に血糖値が下がる以上の結果はなく、例えば運動は長期的に死亡率を下げますが、ベジファーストではそのような効果は報告されていません。つまりベジファーストが健康的かどうかは全く不明です。
また、対象としているのは糖尿病の人ばかりです。糖尿病でない人にとって僅かに血糖値が下がることにどのようなメリットがあるのか不明です。
ただ、ベジファーストについて、全く意味がないわけではありません。ベジファーストを意識することで野菜の摂取量が増えたりすることはよいことですし、野菜を先に食べることでしっかり噛むことができればそれもよいことかもしれません。
「野菜を先に食べるだけ」で健康になれるというのは現時点では真実とは言えませんが、ニュースやメディア、行政も取り上げているのでまるで真実のことかのように思ってしまうでしょう。とくにこれらの論文はほとんど日本から出ているため、どうしても客観的な価値よりもより強調されているのかもしれません。
「有名なこと=正しい、ではない」のはSNSの中だけではなく、テレビや企業中心の情報にも存在することを知っておいて損はないと思います。
ベジファーストによる効果はかなり限定的です。少なくともメディア等で書かれている効果はなさそうですし、健康によいかどうかもはっきりせず、日本以外の国ではあまり評価されていません。
世間で流行っていることは流行っているだけで正しいというわけではありません。一つひとつ確認していくことが大切だと思います。
※1 WHO Use of non-sugar sweeteners: WHO guideline
※3 味の素 パルスイート