「やめないほうが得だから」携帯ビジネスを続ける
そこで2番目の謎について考えてみましょう。なぜ楽天グループは大赤字の携帯ビジネスをやめないのでしょうか? 「それは意地だ」というのもひとつの答えですが、もうひとつの可能性として「今、やめるよりもやめないほうが得だから」というのが答えなのかもしれません。
もう一度、ここまで楽天グループに起きてきたことを整理します。2兆円規模の巨額の投資をして始めた携帯事業ですが、思ったほどには加入者が集まらない状況が続き、経営の足をひっぱるようになりました。中でも頭が痛いのが資金繰りで、このままいくと虎の子ともいえる優良グループ会社を切り売りする形でグループを縮小させていく以外に道がないかもしれないという状況に陥りました。
楽天グループの価値は楽天市場、楽天トラベル、楽天証券、楽天銀行、そして楽天カードなどそれぞれのグループ企業が好調であることに加えて、それらの事業を貫く形で楽天ポイントが生みだす巨大な楽天経済圏への魅力でした。
KDDIによるローソン買収という衝撃
その経済圏の切り売りが始まったことで楽天グループの株価は下がっていったのですが、ここで発想を180度変えるような事態が発生します。
「切り売りをするから企業価値が下がるのだけれども、全部まとめて売るのだったらむしろ企業価値はめちゃくちゃ高いのではないのか?」
という発想です。
そんなことを言っても楽天をまるまる買うなどという相手が見つかるわけがないということで、これまでそのような選択肢はありえなかったのですが、楽天の決算発表の1週間ほど前に、まったく別の場所から事態が動き始めます。
それがライバルでもあるKDDIによるローソンの買収です。コンビニ業界では長らくコンビニ3強による競争が繰り広げられ、その中から頭ひとつ抜きんでる形でセブン‐イレブンがトップの座を盤石なものとしていました。2位のファミマは伊藤忠と、3位のローソンは三菱商事とそれぞれ資本提携することで、商社が持つ物流や人材の資産を活用してそれに対抗することにしたのです。
その前提であればコンビニ業界ではそのまま従来型の競争が未来永劫続くことになったかもしれません。しかし業界3位のローソンの株主である三菱商事はそう考えなかったのです。記者会見で三菱商事のトップはいみじくも、三菱商事でローソンを支援する限界を表明しました。ここからさらに飛躍成長するには他のパートナーが必要だというのです。