「管理職になりたい」と思う人は2割しかいない
企業は、この「タイパ逆転」が自社でどのくらい起こっているのか、月額給与と残業時間のデータを使って一度計算してみることをおすすめします。意外なほど多くの従業員に起こっていることに気がつくはずです。
「罰ゲーム」の状況は、どの立場から見るかによって姿が変わります。先程、管理職と「非管理職」の賃金差について少し触れましたが、ここでは、その「非管理職」から見たときの状況を確かめてみましょう。近年、日本の管理職の求心力、魅力が落ちているという事はしばしば指摘されてきました。図表5はパーソル総合研究所が行った国際調査のデータです。ご覧の通り、日本は各国と比較し、管理職になりたいと思っているメンバー層の割合が21.4%と、断トツの最下位となっています。
意識調査において、日本で控えめな回答傾向がでることはよくあるのですが、それにしても他国と大きな差があります。単純な比較から少し数字を操作してみると、状況はより立体的に見えてきます。例えば日本の管理職意欲の男女比率を見ると、男性を1としたときの女性の意欲が0.57。女性の管理職意欲は、男性の意欲のおおよそ半分強です。他の国は0.7を切っているところすらありません。また20代の管理職への意欲を100としたときの、年代ごとの管理職意欲の国際比較(図表6)を見ると、日本の異常さがさらに際立ちます。管理職への意欲が、日本だけ40代から一気に下がるのです。
男女ともに「昇進はどうでもいい」と思い始めている
その他の国では40代と50代以上計でも横ばいの国が多くあります。横ばいということは、働いている限り、管理職を目指し続ける人が多いということです。日本は、適齢期に管理職になれなかった人は、もうそこでキャリア上昇を諦め、「管理職になれなかった人」として自己認知し始める国だということです。
こうした意識を時系列でも確認してみましょう。日本生産性本部が実施している新入社員についての調査の、平成最後の10年間のデータを見ると、昇進について「どうでもよい」という回答だけが高まっています。この期間は女性活躍推進が進められた10年でもありますが、皮肉にも男女ともに「どうでもよい」が上がっています(図表7)。
同様に経年比較が可能な、博報堂生活総合研究所による長期時系列調査「生活定点」のデータを見てみると、「会社の中で出世したい」という設問に肯定的な回答をする人は、1998年の19.1%から徐々に低下し、2022年には13.2%となっています(※2)。
日本は、管理職への出世に魅力を感じる人が少なく、特にこの20〜30年ほどでより少なくなってきていることは明らかです。さらに「管理職になれなかったベテラン社員」の意欲の落ち方、そして女性の意欲の相対的な低さというジェンダー格差も、日本の管理職問題が国際的に見ても特異であることを示しています。
(※2)博報堂生活総合研究所「生活定点」調査