一般職と管理職の“賃金逆転”が起きている

また、雑な賃金設計が行われている企業では、一般社員の給与と管理職の給与の「逆転現象」さえも起きる場合があります。残業手当のつかない管理職と、手当のつく一般社員を比べて、残業が多かった月には、一般社員が管理職と同等かそれ以上の給与をもらうことが、会社によっては頻繁に起こっています。

「責任は高まるものの報酬に反映されない。仕事も定時で終われず、サービス残業もあるので後悔しかない」(47歳、男性、サービス業)

「一般的な通常の会社なら係長までは平社員扱いで時間外手当などもつくのに、係長以上は管理職だということで手当もつかないのに責任だけが重い」(51歳、男性、運輸・郵便業)

これらの賃金逆転は、単純に言えば賃金設計の「失敗」ですが、ここまでわかりやすい失敗ではないものの、次のようなことも起こりえます。管理職とメンバー層の「タイパ逆転」の現象です。「タイパ」とは最近よく言われる「タイム・パフォーマンス」(時間対効果)の略称です。

仮に、そこそこ残業が多めのメンバー層(非管理職)がいるとします。この人の基本給が26万円だとして、残業を月に25時間して、休日手当・深夜手当含め残業手当を6万円、合計32万円の給与を貰ったとします。この人の給与を時給換算すると、1時間あたり1592円になります。

“タイパ”は悪く、責任も重い

一方で、同じ会社の管理職が貰っている月額給与が、役職手当含めて36万円だとします。残業しないメンバー層とは10万円の差額が設定されており、この時点では「賃金逆転」は起こっていません。しかし、多くの会社で管理職は所定労働時間を超えて労働をしており、残業手当はつきません。

例えば残業を50時間した場合、この管理職の給与は時給換算すると1592円になります。先程の「そこそこ残業が多めのメンバー層」と同じ金額になってしまいました。これ以上に管理職の残業が増えれば「タイパ逆転」現象の出来上がりです(図表4)。

メンバー層に比べ、管理職のほうが責任も重く役割も多く、負荷が高いにもかかわらず、まったく同じタイム・パフォーマンスになるとしたら? いくら管理職層が、表面上は高い給料を貰っていても「苦労が報われている」と考えるのは難しいでしょう。

「自分のキャリアのために副業でもしたほうがマシだ」となってしまいそうです。もちろん処遇は月額給与だけではなく、賞与も関係してきます。しかしほとんどの企業で、管理職の賞与は成果と強く紐付いています。管理職が成果を上げるためにより残業を増やせば、やはりタイパは悪くなります。また、会社全体の業績が反映される場合には、管理職個人がコントロールできる範囲を大きく超えていきます。

これらは簡易的なシミュレーションですが、こうした「タイパ逆転」現象は世間で多く起こり、管理職の魅力を減じています。「自分の仕事を時給で計算したら、とてもやってられないよ」という声は、多くの管理職から聞かれますし、もはや「タイパには目をつぶることにしている」という人も多く目にします。