80年代までに増えた「部下無し管理職」

管理職の削減というと、解雇やリストラなどが原因のようにイメージされるかもしれませんが、実際には管理職は徐々に引退していきますので「新しいポストを増やさない」という自然減による影響もあります。反対に、管理職ポストをかなり自由に「増やしてきた」のが80年代までの日本企業ということです。

人を長く雇用する場合、「いつまでたっても出世できない」ということは仕事のモチベーションに響きます。80年代までの日本企業はモチベーション低下を防ぐために、「あいつは長年頑張っているから、会社でなんらかの上位ポストを用意しよう」ということが多くの企業で行われてきました。「部下無し管理職」、課長・部長の「補佐職」、「スタッフ管理職」など呼び方は多様ですが、直接的な部下を持たないが管理職扱いである層が多く生まれました。

こうした「昇進のためのポスト」「部下無し管理職」の存在が、80年代までの管理職増大の背景にありました。高度~安定成長期では企業全体が成長しているので、ポストが増えてもそれほど問題ではありません。組織の高齢化も今よりも進んではいませんでした。しかしバブル崩壊後、徐々にそうしたことは行われなくなりました。

上の世代の引退やポストオフなどで管理職は減っても、増えることはなくなり、結果的に管理職数は大きく減少していきました。

一般職と管理職の賃金差は縮まりつつある

管理職の「数」と同時に、もう一つ減ってきたものがあります。管理職の「賃金」です。

正確に言えば、管理職ではない一般職層と管理職層の賃金の差、つまり管理職になることで期待できる上積み金額が、長期的に減少してきているのです。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(図表3)から計算してみると、1981年には、部長の賃金は非役職者の約2.2倍だったのに対し2022年には約1.9倍に、同様に課長の賃金は非役職者の約1.8倍から約1.6倍に、係長の賃金は約1.5倍から約1.3倍に下がっています。

【図表】日役職者を100としたときの管理職賃金
出所=『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』、厚生労働省の賃金構造基本統計調査より筆者が作成。2015年以降は集計・推計方法の変更により参考値

賃金構造基本統計調査は集計・推計方法の変更があるため、連続性は正確ではありませんが、大きな傾向は掴めます(※1)

日本には労働組合による「春闘」と呼ばれる春季労使交渉が毎年あり、最近も、世界的インフレで物価高が続く対応として組合交渉が盛んに行われ、数十年ぶりの高水準で賃上げが行われました。その交渉の場でも、組合員ではない管理職の賃金は議論の優先順位が下がります。そのため賃金の伸びへの圧力が低い状態になります。

(※1)大井(2005)では、1979年から2004年までの管理職と一般職の相対賃金を調べ、同様の結果を得ている。また、この論文では各種公式統計における「管理職」の範囲や定義についても詳細な議論が行われており、詳しく知りたい方は参照されたい。大井方子“数字で見る管理職像の変化”日本労働研究雑誌2005,545:4-17