なぜ「退職代行サービス」を使うのか

本稿を読んでいる皆さんは、すでに退職代行サービスが提供するサービス内容についてよくご存じかもしれないが、簡単に確認しておこう。

退職代行サービスとは、従業員が(解雇ではなく)自らの意思で退職する際に、そのための通知や書類作成などの一連の手続きを代わりにしてくれるサービスのことだ。本来、自分でやればいい手続きを、わざわざお金を払ってまでやってもらう目的は、大きく分けて2つある。

①面倒で煩雑はんざつな退職手続きを代わりに処理してもらうこと
②スムーズかつ円満に退職すること

①については、あらゆる「代行サービス」に共通した目的であり、イメージもしやすい。忙しいあなたに代わって作業してもらうもので、家事代行サービスやベビーシッターなどが典型例だ。経営学の視座からすれば、そもそもこうしたアウトソーシングは、経済成長の源の1つだ。

「本来、自分がやるべきことを誰かにやってもらう行為」は、いわば仕事(特にサービス業)の定義みたいなものだ。外食産業(料理)、交通機関(移動)、保健医療(治療や介護)など、例をあげれば枚挙に暇がない。イノベーション論の研究者から言わせれば、次に何のアウトソーシングがはやるかを予測することが、すなわち次のイノベーションを予測することにもつながる。

オフィスで契約を結ぶビジネスマン
写真=iStock.com/ilkercelik
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代行業者が行っている「3つのサービス」

例えば、生成AIは人のどんな活動を代行することになるのだろうか……。話が脱線してしまった(研究者の悪いクセです)。元へ戻そう。

先に退職代行サービスの目的として、①と②の2つに整理したが、実際のところは②の「スムーズかつ円満に退職すること」が、若者ニーズのほぼすべてといっても過言ではない。昨今の退職代行サービスは、実際にどんなことを代行してくれるのか。代行業者によって細かなサービスの違いはあるようだが、主に次のように整理できる。

①退職に伴う必要書類の準備・作成

退職届や関連する書類の準備・作成をしてくれる。この作業そのものはたいした負担ではないだろう。

②勤務先や雇用主への連絡・取次

文字通り、あなたの退職の意志を勤め先の人事部等に通知してくれる。その後、どうしても複数回にわたるやり取りが必要になるが、それをストレスに感じる若手が多い印象だ。

③法的な手続きの支援

これも結構ありがたいと思う人が多そうだ。労働法や関連する法律に従った手続きをチェック、支援をしてくれる。例えば、適切な退職日の調整や、給与や残業代の精算、社会保険や年金の引継ぎなどが該当する。退職に伴う秘密保持契約の確認なども含まれる。