※本稿は、金間大介『静かに退職する若者たち』(PHP)の一部を再編集したものです。
なぜ若者は相談せず突然辞めてしまうのか
去年あたりから「何も相談せずに辞めた若者」の話を頻繁に聞くようになった。実は僕が実施した「101ヒアリング(101人に対するヒアリング調査)」でも、約7割の人事担当者が「思いもよらない若手の退職」を経験していた。
人事部にとっては、長い時間とコストをかけ、やっと採用した貴重な人材。管理職やメンターにしてみれば、忙しい日常業務と並行して苦労して育成したかわいい部下である。そんな若者が、挨拶もなしに辞めていく。心中を察するに余りある。
「せっかく1on1の場を設けているのに、不満があるのなら、なぜその場で言わないのか?」
問題はそこだ。1on1で決して本音を明かさないのであれば、今後も対策のしようがなくなってしまう。なぜ、若者は本音を明かすことを避けるのか。
とある大手メーカーの開発部長から聞いた話だ。紆余曲折はあるのかもしれないが、これまで安定した業績を刻んできた会社だ。僕が実際にそう言うと、開発部長は「いやいや、そう見えるだけでうちも色々あるんですよ。紆余曲折なんてもんじゃなくて」と笑う。謙遜はしているが、安定して見えるだけでも十分にすごい。笑いながら返せるというのも、かすかな余裕を感じ取れる。
それを裏付けるように、近年の新入社員のスペックは高い。僕が実際にそう言うと、開発部長は「いやいや、ほんとそうなんですよ。今自分が彼らと一緒に入社試験を受けたら、絶対に落ちます」と笑う。こちらも謙遜しているようにみえるが、あれは本音だった(僕のノンバーバル・コミュニケーション力が狂ってなければですが)。実際に若手社員の学歴を聞くと、ほとんどが旧帝国大学か東京工業大学の修士以上だ。
そんな状態にもかかわらず、「若手人材に悩みがある」なんて言っちゃいけないでしょう(他の会社の人に怒られますよ)。と思ったが、詳細を聞くと、課題は確かに深刻だった。