日本でノルウェー産サーモンの消費が伸びている。この10年で輸入量は5割増という。時事通信社水産部の川本大吾部長は「かつてサケの生食は少なかったが、1990年代以降に寿司ネタとして定着した。その背景にはノルウェーの輸出戦略があった」という――。
※本稿は、川本大吾『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)の一部を再編集したものです。
いつの間にか寿司桶の中央に鎮座していたサーモン
ノルウェー産サーモンが日本で普及したのは、ここ20~30年のことだ。筆者が子供のころには、たまにお目に掛かれる寿司のネタにサーモンはなかった。学生時代にも見た記憶はなく、恐らく社会人になってから、その存在を知ったように思う。しかし、当時は寿司ネタではなく、サラダ感覚のスモークサーモンが目立っていたような気がする。
それがしばらくすると、知らないうちに寿司ネタとして堂々とレギュラー入りしていた。「新人らしからぬルーキー」といった具合だろうか。どういうわけだか急にサーモンピンクが、これまでにない彩りで握り寿司のセットを一層華やかにしていた。
江戸前を起源とする「握り寿司」に、海外産の、それも新顔の養殖魚が仲間入りするのはそう簡単なことではない。江戸前には、国産・天然・近海の三拍子揃った「上物」が似合うはずだが、今では寿司桶の中央にドンと並べられ、みんなおいしく食べている。いったいなぜだろうか。