リクルートワークス研究所は、2040年に生活維持サービスに必要な担い手がどれだけ不足するかを、都道府県別にシミュレーションした。その結果は、31道府県で充足率が75%以下になるという衝撃的なものだった。なぜ、京都府や新潟県のように、一定の経済規模があり、観光や製造業などの“外向けの産業”がある府県で人手不足が深刻化するのか――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2040年に生産年齢人口の割合は54%になる

少子高齢化が急速に進む日本。少子高齢化は、年金や社会保障、医療制度などさまざまな問題を引き起こすという議論がなされて久しいが、それにより私たちの暮らしにはどのような影響があるのだろうか。

「少子高齢化で大変だ」とは言われるが何が大変になったのか、実際に肌で感じることはそれほど多くないのではないか。

では、少子高齢化の社会への影響は、どのような局面からはじまるのか――。

2020年に58.7%だった生産年齢人口比率は、2035年には56.4%、2040年には53.9%まで低下する。生産年齢人口の割合が50%少々の社会では何が起こるのか。「座して待つと何が起こるのか」という将来像を明確にすべく、私たちは労働の需要と供給の観点からシミュレーションをおこなった。

その結果が図表1だ。これは、シミュレーションモデルに基づいて推計した、2040年までの日本全体での労働需要、労働供給、労働需給ギャップ(供給不足)を可視化したものである。図のグレーの線が労働需要、ピンクの線が労働供給、棒グラフが供給不足をそれぞれ表している。

【図表1】労働需給シミュレーション
出典=リクルートワークス研究所、2023、「未来予測2040

2040年に働き手が1100万人不足する

2040年までの労働需給シミュレーション全体の動きとしては、労働需要がほぼ横ばい、微増の状況に対し、労働供給が大きく減少している。つまり、労働需要側はほとんど横ばいのような曲線を描いているのにもかかわらず、大きな“労働供給の制約”が発生している。結果として、労働供給の不足は2030年に341万人余、2040年に1100万人余となっていく。

まず、労働需要については将来にわたって増加しているが、その傾きは緩やかであり、労働供給が減少する傾きに比べると横ばいに近い状態になっている。後述するが、労働需要の推計式は政府が発表した将来の名目GDP予想を前提としており、高い経済成長率を見込んでいない。ほとんどゼロ成長と言える。

しかし、経済成長はほとんどしないものの、人手を要するサービスへの依存度が高い高齢者人口の割合が高まることにより、労働需要は減少局面には入らない。高齢層がとくに医療、介護をはじめ物流業、小売業に対して強い労働需要を持つことを背景に、またそうした業種が労働集約型であるために、こうした業種・職種に従事する労働力の消費量が中心となって、労働需要全体が今後も高止まりする可能性が想定される。

次に労働供給であるが、こちらは労働需要とは異なり急な傾きで減少していく。今後数年は踊り場状態にあり、2027年頃から急激に減少する局面に入る。これも詳細は後述するが、労働供給の値は、シミュレーションモデルで推計した将来の労働力率に将来人口推計を乗じる方法によって計算している。図のとおり、将来にわたって労働供給の値は徐々に低下していき、需給ギャップは大きくなっていく。