近畿地方の働き手が丸ごと消滅

このように労働供給が減少していくことによって発生する労働供給制約という問題は、成長産業に労働力が移動できない、人手が足りなくて忙しいというレベルの不足ではない。2030年の労働供給不足の数は341万人余で、現在の中国地方の就業者数(中国地方の就業者数は2022年7~9月期平均で384万人)の規模に近い。

さらに、2040年の労働供給不足の数は1100万人と、およそ現在の近畿地方全域の就業者数が丸ごと消滅する規模(同1104万人)に匹敵する。結果的に、運搬職や建設職、介護、医療などの生活維持にかかわるサービスにおいて、サービスの質を維持することが難しいレベルでの労働供給制約が生じるのである。ひとえに2040年に1100万人の働き手が不足するといっても、当然、職種や地域によって深刻さの度合いは異なる。

そこで本稿では、私たちの生活を支える「生活維持サービス」に注目して、その将来を労働力の面から予測。私たちの生活を支える職種に注目することで、2040年の生活の状態を浮き彫りにする。

そのために、「都道府県×職種別」の労働需給シミュレーションを実施した。その結果を見ていこう。

都市圏の需給ギャップは大きくない

日本全体で2030年に341万人余、2040年に1100万人余の労働供給が不足することを先に述べた。しかし、都道府県によって産業構造が異なれば、人々が働く産業や職種も当然異なる。そこで本稿では、生活維持サービスの充足率を、都道府県別にシミュレーションした結果を説明する。

生活維持サービスに分類される7職種の値を合計したかたちで都道府県別に状況を示していく。

まずは図表2を見ていただきたい。これは今回、分析対象にした生活維持サービスの充足率を日本地図上にプロットしたものである。色が薄い地域ほど充足率が高く需給ギャップが解消されており、人手不足感が小さい。逆に、色が濃い地域では需給ギャップが大きくなっている。

【図表2】2040年の生活維持サービスの充足率
出典=リクルートワークス研究所

本データのポイントは、都市圏と地方圏で需給ギャップの傾向が異なることである。埼玉、東京、千葉、神奈川、大阪、福岡といった都市圏では、ほかのエリアに比べて需給ギャップがあまり発生していない。

また、2030年時点では宮城県でも需給ギャップがあまり大きくないようである。この背景には人口の流入がある。総務省統計局による「住民基本台帳人口移動報告2020年(令和2年)結果」を見ると、前述の都市圏では人口流入が多くあった。

このように、人が集まれば集まるほど、その地域には労働需要が新たに創出される。そうなれば、その需要を支えるための労働供給も増えていく。こうした流れで、都市圏では比較的需給ギャップが大きくならないのであろう。

一方、地方圏で需給ギャップが大きくなっているのは都市圏と異なる動きであり、一定の労働需要がありながらもそこに追い付いていないのである。