全米で23万部のベストセラー本を著したがん研究者ケリー・ターナー氏は、がんが劇的に寛解(根治)した1500以上の症例を分析。世界中の数百人ものがんサバイバーたちにインタビューした結果、奇跡的な回復を遂げたがん患者たちには、ある共通点があることがわかった。そのうちの一つが、「運動」だった――。

※本稿は、ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

がんの根治に運動は不可欠

私たちは運動が身体にいいことを知っています。たとえがん患者であっても、運動が健康にいいということは明らかでしょう。しかし、がんと身体活動の関係は近年まで、研究者や患者、メディアの注目を集めませんでした。たとえば、「運動とがん」に関する書籍をインターネットで検索してみると、「食事とがん」に関する書籍の4分の1ほどです。

私ががんの劇的な寛解(根治)について最初に研究したとき、運動はがんサバイバーが実践する治癒要因の一つとして挙がっていました。しかし、すべてのサバイバーが実践している要因ではなかったので、最初の論文や本には、最も一般的な治癒要因の一つには入れませんでした。これは、私が調査した人々の多くが、治癒の過程の初期で、運動ができないほど身体が弱っていたからだと思われます。

体力がつくにつれて多くの人が身体を動かすようになり、健康が戻ってくると全員が定期的に運動したり身体を動かすようになりました。病気の最中には、病気や治療による身体的負担のために運動ができなかったかもしれませんが、じつは運動は長期的な寛解に不可欠なものだったのです。

過去の劇的寛解の症例を見直し、私の前著『がんが自然に治る生き方』の出版後に寄せられた新しい症例を分析した結果、劇的寛解を遂げた人たちは、体力が回復すると同時に何らかの身体活動や運動を生活に取り入れていることがわかりました。これが、劇的寛解の症例に共通する10番目の要因として、運動を含めるようになった理由です。

毎日、身体を動かすだけでいい

運動を身体活動として捉え直すとよいかもしれません。私の初期の研究では、サバイバーの多くは、毎日の散歩や動作を運動とは考えていなかったため、インタビューの中で運動について触れることはありませんでした。

元マラソンランナーにしてトライアスロン選手、ジム愛好家、ヨガのマスターでもあったトレイシーを例にとってみましょう。トレイシーは、かつて自分が運動とみなすものに高いハードルを設定していました。彼女は病気でどん底のとき、身体が痛くて以前のトレーニングができなくなったので、まったく運動ができない時期だと考えていました。一番弱っていたときは、道を歩くのもやっとだったそうです。

しかし、その間に少しでも身体を動かしていたかと尋ねると、彼女は「道を歩けるところまで歩いて、少し休んで、引き返して家に帰る」というような、体力を維持するためのちょっとした運動をしていたことを思い出しました。しかし、それは運動でもなければ、治療の一環でもありませんでした。生きるために彼女がしていたことだったのです。

病気が重いときは簡単な用事を済ませるだけでも体力を消耗するため、身体活動になることがあります。トレイシーは治療中に、2時間の昼寝をせずに、同じ日にスーパーと図書館の両方に行けたとき、ちょっとしたお祝いをしたことを覚えています。この話からわかるのは、運動は形式的なものや激しいものである必要はないということです。特別な服装も、ジムの会員になる必要もありません。毎日、身体を動かすだけでいいのです。

ステージⅣの膵臓がんからの生還

前著『がんが自然に治る生き方』が出版されて以来、私たちはウェブサイトRadicalRemission.comを通じて、さらに多くのサバイバーから連絡をもらっています。その一人が、ニュージーランドのトレマネです。

トレマネは、2012年にステージ4の膵臓すいぞうがんと診断されました。診断前は屋内サッカーや週2~3回のジム通い、ビーチでのブギーボード、ヨガなど、とても健康的で活動的でした。しかし、主治医のたった一言で、彼の人生は一変しました。

「末期がんだと告げられたんです。腫瘍が胃と肺を圧迫していて、これ以上広げないために、動くのをやめるようにと言われたんです。だから私は身体を動かすのをやめました。思い返すと、それは間違いだったと思います。

それからわずか1年後、この段階で私は死ぬことはないのだと悟りました。回復するでもなく、死ぬでもない、ただ生きている状態だったのです。そして、その穴から抜け出させてくれたものの一つが、運動だったのです。

1年間、身体を動かすのをやめていたのですが、これは間違いだと思ったんです。このままではいけない。じっとしているのは性に合わなかったのです。それで毎日、仕事が終わったあとに1ブロック歩くようにしました。そして1年半後、またヨガをはじめたんです」

トレマネの例で興味深いのは、彼は診断後、医師からやめるように言われるまで定期的に運動していたことです。幸運にも、彼は直感に従って1年後に運動を再開し、それが(ほかの9つの劇的寛解の治癒要因の実践とともに)劇的寛解を達成するのに役立ったと信じています。

幸い、トレマネの直感は最新の科学的研究と一致していて、中程度から強度の運動が、がん患者の治癒をサポートするための最善の方法の一つであることが示されています。

入院中のアジア系インド人患者
写真=iStock.com/KSChong
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