運動はがん患者を強くする

がん患者やがんサバイバーに対する運動の効果を調査した最初の研究は、1980年代に発表されました。それ以来、国立がん研究所、アメリカがん協会、アメリカスポーツ医学会(ACSM)は、がん治療中の運動は安全で実行可能であるだけでなく、治療中の身体機能を改善し、疲労を軽減し、生活の質(QOL)を高められると決定的に結論づけています。2018年、ACSMは円卓会議を開催して最新の研究をレビューし、がんの予防とコントロールの一形態としての運動に関する推奨事項を更新。がんの予防、治療支援、再発抑制、生存率向上における運動の有効性を示すエビデンスが増えています。最大の課題は、がんになったときの運動の利点について広く伝え、がん専門医が患者と運動について話し合えるように教育していくことです。

ご想像のとおり、がんを患っている人は運動をしたほうが、運動しない人よりも強くなります。前立腺がんの患者を対象としたある研究では、短時間の運動により、運動をしなかった前立腺がん患者と比べて筋肉量や筋力、身体機能、バランスが大幅に改善することが明らかになりました。

田舎の環境での人間、ランニング
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がん治療による副作用を軽減する

運動はがん患者を強くするだけでなく、従来のがん治療による副作用を軽減するのにも役立ちます。たとえば、ある研究では化学療法を受けている乳がんや大腸がんの患者に、1日1万歩のウォーキングを指示しました。その結果、歩かなかったグループに比べ、歩いた患者たちは治療による副作用が大幅に軽く、痛みや腫はれも少なく、運動能力も向上しました。

別の研究では、化学療法と並行して運動をした乳がん患者を調査しています。運動をしなかったグループと比較して、運動している人は炎症性バイオマーカーのレベルが低下し、神経認知機能を維持することができました。運動のおかげで、炎症と化学療法による認知機能障害、いわゆる「ケモブレイン」が軽減されました。

そのほかの数多くの研究でも、運動が治療中のがん患者の生活の質を向上させることが示されています。その中には、身体イメージ/自尊心、睡眠の質、社会的機能、セクシュアリティ、疲労や痛みのレベル、感情の豊かさ(とくに運動はうつや不安を著しく軽減します)などが含まれます。

生活の質を向上させることは重要ですが、運動が人体、とくにがんを治そうとしている人の身体に具体的にどのような影響を与えるのか、疑問に思うかもしれません。運動は、がん患者の身体に、以下のような生理学的変化をもたらすことが研究により示されています。

・炎症の抑制
・インスリン抵抗性の低下
・免疫細胞の活性化と数の増加
・リンパ系におけるリンパ液の流れの増加
・消化器官が毒素にさらされるのを抑制する機能の向上
・インスリンやエストロゲンなどのホルモンレベルの低下
・酸素の供給と利用の改善
・ミトコンドリアの生合成の増加
・肥満の解消

これらの用語になじみがなくても、がん患者やすべての人が経験できる、非常にポジティブな身体的変化であることは理解いただけるでしょう。そのため、アメリカがん協会では、すべてのがん患者に運動することを推奨しており、寝たきりの患者の場合には理学療法を勧めています。