なぜ非営利組織にしているのか

そもそもOpenAI自体は非営利組織でその下に営利組織の株式会社を持ち、ChatGPTのサービスは株式会社が提供しています。

OpenAIが非営利組織であり続けているのは、同社が掲げるミッションにあります。OpenAIは汎用AIの開発を目標としていますが、仮に開発が実現しても表には出さないと公言しています。

それは汎用AIの負の影響を懸念しているためで、自らのコントロール下に置くために非公開とするというスタンスを取っているのです。

一方で、汎用AIを開発する過程で生まれた技術に関しては公開するとしており、その一つがChatGPTということになります。

OpenAIはAIの危険性も見据えた非営利目的の研究者たちが集まった組織ですから、いわばピュアな動機を重視している人もいる一方で、ChatGPTが世界的に流行したことで組織が急拡大し、ビジネス指向の人も増えたはずで、社内の意思統一が揺らいでいるのかもしれません。

しかもOpenAIはMicrosoftから100億ドル(約1兆5000億円、現在のレート。以下同じ)とも150億ドル(約2兆2500億円)とも言われる投資を受けています。

MicrosoftはOpenAIの株を49%保有してもいますから、OpenAI内部の人たちに葛藤があるのではないかと推測されます。ピュアな研究者からすると、Microsoftのように大金を稼ぎ政治的な存在感もある会社に対する反発もあったのかもしれません。

カリフォルニア州マウンテンビューにある米マイクロソフト社
写真=iStock.com/NicolasMcComber
※写真はイメージです

マイクロソフトが直面する課題

Microsoftにとってマイナスなのは、一つは49%もの株を持っているOpenAIに対して何らのグリップも効いていないことがこの騒動で露呈してしまったこと。

100億ドルもの投資をしている会社でこうした問題が起きれば、Microsoftの経営陣は責任を問われ、最悪、株主代表訴訟を起こされかねません。

『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)
『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)

また、MicrosoftはOpenAIに生成AIに対する逆風を受け止めてもらっており、いわば風よけになっていた側面は否定できないでしょう。

実際、生成AIについてはフェイクニュース生成を容易にするなどの民主主義への影響や、著作権問題、個人情報の問題などさまざまな課題が指摘され、法規制も検討されていますが、こうした逆風はOpenAIが前面で受け止めている状態にありました。

一方のMicrosoftはその後ろで粛々とChatGPTを自社のサービス、つまりwordやExcelをはじめとするOfficeのアプリケーションに組み込んでいく……という構図になっていたといえるでしょう。

しかし今回のことで風よけがふらつき、Microsoft自身も風を受けることになってしまいました。これはMicrosoftにとってよかったとはいえないのではないでしょうか。

(インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)
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