ブルシット・ジョブを増やす人間の性

前述の新著『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)で詳しく議論しましたが、AIで業務を効率化したときに気をつけなければならないのは、AIを導入して部分的に生産性が上がったとしても、全体でみるとむしろマイナスになっている、という事態です。

文書作成が容易になれば作られる文書の量が増大し、確認するだけでも一苦労になるとか、本来なら作成の必要がないアリバイ的な文書まで無限に作られるという事態も想定されるのです。

さらには、これは実に人間らしい顛末と言えるかもしれませんが、ある部分が効率化されると、人は一生懸命無駄な仕事、つまりブルシット・ジョブを増やすようになります。

「効率化したのだから勤務時間を短くして早く帰ろう」とはならず、空いた時間を埋める別の仕事を探し出し、生み出すようになるでしょう。

国立情報学研究所 情報社会相関研究系・教授 佐藤 一郎
写真=プレジデントオンライン編集部撮影

若手社員の成長を阻害する

また、AIに置き換えたことによって起きる影響として考慮しておくべき点がもう一つあります。

よくChatGPTのような文章生成AIに任せる仕事として「社内会議の議事録の整理」が挙げられますが、これをAIに任せることによって仕事の手間が省ける一方、社員養成を担っていた仕事が消えてしまう可能性が出てきます。

議事録作成のような仕事は、多くの場合、新人や年次の若い社員が担っています。単に文書が必要だから作らせているわけではなく、会議の内容を聞き直して要点を抽出することが、若手社員自身の学びにもなっているからです。

当然のことですが、そもそも若手社員には、ベテラン社員のような働きぶりは期待できません。そのため、最初はAIでも行えるような仕事をしてもらうことによって仕事の内容を把握し、能力を上げてさせていたことは少なくないでしょう。

文書作成のような仕事は確かにAIに置き換えることが可能でしょうが、そうした場合、新人社員はどのような仕事を担うことでベテランになるための積み上げる機会を失うことを考えておく必要があります。