11月16日、米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手はMLBアメリカン・リーグのMVPを満票で獲得した。大谷選手は、日本国内の全小学校に6万個のグラブを寄贈すると発表している。スポーツライターの広尾晃さんは「日本の野球界はこのグラブをどう活用するか真剣に考えるべきだ。このままではただの記念品になってしまう」という――。
2023年9月30日、3年連続でチームMVPに選ばれたロサンゼルス・エンゼルスの二刀流・大谷翔平選手(中央)=カリフォルニア州アナハイム、エンゼル・スタジアム
写真=Sipa USA/時事通信フォト
2023年9月30日、3年連続でチームMVPに選ばれたロサンゼルス・エンゼルスの二刀流・大谷翔平選手(中央)=カリフォルニア州アナハイム、エンゼル・スタジアム

大谷翔平から贈られた推定6億円のプレゼント

まさに絶妙なタイミングだった。今季エンゼルスをFAになった大谷翔平選手は、11月8日、日本のすべての小学校に各3個ずつグラブを寄贈すると発表した。日本シリーズ、アメリカのワールドシリーズが終わって、野球ファンの気持ちが落ち着いたタイミングでの発表だった。

配布するのは国立、公立、私立の小学校に特別支援学校も含まれる。文部科学省によれば、令和5年度、国立の小学校は67校、公立は1万8668校、私立は244校、特別支援学校は1013校。合わせて1万9992校だ。

ここに、1校当たり3個(右用2、左用1)のジュニアグラブを送付するという。約6万個という数字になる。なお、14日配信の東スポWEBによれば、学校側が希望しない場合は、グラブを寄贈しませんという。

大谷翔平寄贈のグラブは“飾り物”じゃない!「ボロボロになるまで使ってほしい」と関係者が代弁(2023年11月14日 16:30 東スポWEB)

子ども用の軟式グラブは、2000円台から売っている。最も高いもので1万円程度。大谷のプレゼントは最大で6億円程度の費用がかかったと考えられる。今季の年俸が3000万ドル(約45億円、レートは当時。以下同)、FA移籍する来季は10年5億ドル(約750億円)以上とも言われる年俸を手にする大谷にとっても、決して小さな金額ではない。

グラブの市場が激変する可能性

筆者がまず思ったのは、プレゼントの巨大さだ。

昨年度、スポーツ少年団に入って軟式野球をしていた小学生は全国で11万756人(4年生以上、女子9032人、男子10万1724人)、スポーツ少年団に入っていないチームもあるが、6万個というのは、野球をする小学生のおよそ半分に、グラブをプレゼントすることとなる。

かつては、少年団などに入ることなく、空き地で仲間と野球遊びをする小学生がたくさんいた。それらを含めてジュニアグラブのマーケットは、もっと大きかった。今はそういう小学生がほぼ絶滅したので、マーケットは縮小している。

そんな中で、6万個ものグラブが無償配布されることで、国内のグラブメーカーは大きな影響を受けることになるだろう。

大谷翔平は2022年までアシックスのグラブを使用していたが、今年から米ニューバランスと契約した。ニューバランスはグラブを作っていなかったが、大谷との契約を機にグラブを製作。そのミニチュア版を今回配布することにしたのだ。

大谷は、今季からバットもアシックスから米チャンドラー製に切り替えたが、チャンドラー製のバットの日本での販売数が急増していると伝えられた。

ニューバランスは今のところ、グラブの販売は考えていないとのことだが、将来的には計画があるようだ。だとすれば、今回のグラブ寄贈は、日本市場への極めて効果的なマーケティングだと言うこともできるだろう。