活用法への懸念
懸念するのは、小学校がグラブをどのように活用するか、ということだ。
小学校のクラブ活動は4年生から始まるが、運動系のクラブ活動で「野球」を行っている学校は非常に少ない。前述のように、学校とは別にスポーツ少年団に所属する野球チームがある。多くは市町村や学区で紐づけられ、小学校の校庭を使用しているが、こうしたチームと小学校は直接のつながりがない。
小学校側がこうしたチームにグラブを貸与するようなケースが考えられるのかどうか。管理面を考えるなら、簡単にはいかないだろう。
文部科学省は、2011年度に学習指導要領を改訂し、小中学校の体育学習に「ゲーム及びボール運動」領域を導入することとした。体育学習において、「ベースボール型ゲーム」「ゴール型」「ネット型」を選択することになる。指導要領に拠れば、小学3年もしくは4年生以降は「ゲーム形式」を中心とした授業をすることになっている。
大谷翔平が寄贈したグラブが、学校の授業で活用される可能性はある。グラブの寄贈がきっかけとなって「ベースボール型」を選択する学校が増えることも考えられるだろう。
恐らく大谷翔平は、そうした現実的な使用法を想定して、小学生にグラブの寄贈を思い立ったのではないだろう。もっと、軽い気持ちで、グラブを手にした小学生が「野球やろうぜ」とばかりにキャッチボールを始めるような、楽しい気持ちになることを想定していたはずだ。
ここ10年で進んだ野球離れ
しかし今の小学校に、そういう「空気」があるかどうか。
大谷翔平が小学校に通っていたのは今から十数年ほど前だが、そのころと比べても小学生の嗜好、意識は大きく変わっている。
筆者は近所の小学校へ通学する子供たちの姿を時折観察する。昭和の小学生なら、歩きながら投手の投球フォームをまねたり、傘をバットに見立てて振り回したりしたものだが、今の小学生からはそうした「野球のしぐさ」が抜けてしまっている。
昭和の時代、巨人戦を中心としたプロ野球中継は、視聴率が確実に稼げるドル箱だった。平均視聴率は20%を超え、各局がゴールデンタイムに巨人戦を中継した。父親とともにテレビ観戦をした子供は自然に野球ファンになっていったのだ。
それが2006年に平均視聴率が10%を割り込むと、地上波テレビの野球中継は激減する。
NPB球団はそれに対応して地元密着のマーケティングを強化したのだが、全国的なプロ野球への関心は、これを境に急速に衰えていく。
大谷翔平など日本人メジャーリーガーの活躍で、野球は人気スポーツの地位を保っているが、愛好者は各球団のファンなどヘビーユーザーに限定され、全体としての「野球ファン」は減少している。またそれに伴って野球の競技人口も減少しているのだ。
各種の機関から発表される「小学生の好きなスポーツランキング」でも、上位には水泳、バドミントン、サッカー、バスケットボールなどが並び、野球は10位前後になっていることが多い。ただし憧れのスポーツ選手は、ダントツに大谷翔平なのだが。