9月14日、阪神タイガースは18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝を果たした。神戸大学大学院の木村幹教授は「阪神ファンほど素直で純粋な野球ファンはいない。だから喜びのあまり、道頓堀に飛び込んでしまうのだろう。近鉄、南海、阪急、そして現在のオリックスのファンとは決定的に違う」という――。
道頓堀・戎橋
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阪神ファンを語る上で欠かせないある番組

最初に断っておくが、筆者は阪神ファンではない。しかしながら、その事は、筆者が阪神タイガースという球団と、如何なる関係も持たずこれまでの57年間を生きてきた事を意味するか、といえばそれはやはりそうではない。

否、この地域で生きていく以上、阪神ファンであろうとなかろうと、そもそも野球というスポーツに関心があろうとなかろうと、「阪神タイガース」なるものとの関連を一切持たずに生きていくのは不可能だ。

それを筆者の人生を振り返って書くとこんな感じになる。まず幼い頃を思い返すと、よみがえってくるのは、朝早くからラジオで流れて来る「六甲おろし」をがなり立てるアナウンサーの大声だ。あの熱烈な阪神タイガースファンで知られる、朝日放送の道上洋三アナウンサーの番組だな、と思った人はまだ甘い。あの番組には実は、先行番組があってその話である。

朝日放送が1971年にはじめた「おはようパーソナリティ 中村鋭一です」は、ただひたすらアナウンサーが関西弁で自らの判断で話し続ける、という当時としては、極めて大胆なスタイルの番組で、たちまち関西地方でブームを巻き起こした。

背景にあったのは、放送局は不偏不党でなければならない、というそれまでの放送界にそれなりに存在した原則を、敢えて無視してみせる、という試みであった。そして、それがプロ野球において表れたのが、中村が「自身の(放送局の、ではない事に注意)」応援する阪神タイガースを、自らの冠番組で公然と応援する、という当時としては驚くべきスタイルだった、という事になる。

朝日放送の一アナウンサーに過ぎなかった中村は、この番組により一躍有名人となり、自らの番組内で自らの政治的意見をも比較的自由に話した事であり、やがて政界でも注目される存在になった。