なぜ道頓堀に飛び込むのか

だから、多くの場合、関西では、嘗ての近鉄ファンや、南海ファン、阪急ファン、そして現在のオリックスファンも、何かしらの阪神タイガースに関わる思い出を持っている。何故なら我々には、この地域に住みながら「阪神ファンにならなかった理由」が必要であり、実際多くの場合、そのきっかけもあるからだ。

しかし、その様な思い出は阪神ファンの人の多くはもっていない。何故なら、彼等はこの阪神に関わる情報が寡占状態にある中、その情報を比較的素直に信じてきた人達だからである。そして、彼等のプロ野球に対する関心は、とにかく阪神タイガースに集中しているので、他球団、とりわけ異なるリーグに所属するチームの状況にはあまり関心を有していない。

他球団のファンと比べれば阪神ファンは、阪神に関わる情報に溢れた世界で流されるメッセージに素直に反応する。彼等は素直な人々なので、チームの勝利を素直に信じている。だからこそ、その勝利の喜びに浸る時には、時に飛びこんではいけない川にまで飛びこんでしまう。しかも、それがある種のルーティーンにまでなってしまっている。

道頓堀川に架かる戎橋でスマホ画面を掲げ、阪神優勝の瞬間を待つファン=2023年9月14日午後、大阪市
写真=時事通信フォト
道頓堀川に架かる戎橋でスマホ画面を掲げ、阪神優勝の瞬間を待つファン=2023年9月14日午後、大阪市

逆にチームが敗れた時には、それは何かの間違えであり、誰かが大きな失敗をした結果だと信じるので、猛烈な執行部や選手批判が行われる。そしてその典型は、甲子園独特の怒号となって時にあらわれる。

パ・リーグの試合では、特にブーイングが飛ぶ場合にも、どこかに突き放した部分があり、人はできるだけユーモアを交えようとする。しかしながら、阪神ファンの人達の批判はなかなかストレートだ。

通算成績はよくないのにファンは多い

つまりは、この地域で阪神ファンをつとめる人達が、実はなかなか素直な人達なのである。メディアに溢れる情報をそのまま信じ、チームがいつか優勝する日をじっと待っている。昔から隣にはとても強いパリーグ球団があり、応援の為のチケットも取りやすいのに、そちらの方に乗り換えようとは思わない。監督が代わっても選手が代わっても、律義にチームへの支持をかえようとはしない。

そしてそれは凄い事だし、尊敬すべき事でもあると思う。考えてみれば阪神タイガースは2 リーグ制以降、今回でようやく 6回目の優勝を遂げた所である。これを下回るのは、2000 年代に新設された楽天と、DeNA 、そしてロッテだけであり、阪神は決して通算成績の良い球団とは言えない。にも拘わらず、これだけの熱狂的なファンがつき、彼等はチームから離れようとはしない。

それは一体どうしてなのだろうか。ともあれ明らかなのは、ひょっとすると阪神タイガースよりも怖いのはこうした純粋で素直な阪神ファンなのかもしれない、という事だ。

無事、CSを勝ち抜いて、我らがオリックスバファローズとの日本シリーズまで上がってきてください。そしてその時、この関西地方の新しい何かが見られれば、良いのですが。京セラドーム迄来てくださいね。

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