今はただの家政婦、自分の意見ひとつ口にできない奴隷

相当追い詰められている様子である。

これから先はどうするつもり?

「彼にも去られてしまったし、何とかこの状況を乗り越えて、家庭が元に戻れるよう頑張らなくちゃって気持ちでいます。でも、そうなれる自信はまったくありません。娘が高校に入学したら離婚される可能性は大きいです。慰謝料も請求されるかもしれないし、そのためにも仕事に復帰しようと考えているんですけど、働きに出ると夫はますます疑うでしょう。とにかく今は家のことを完璧にして、いい妻、いい母親でいることに必死です。今の私はただの家政婦、もっと言えば、自分の意見ひとつ口にできない奴隷のようなものです」

最後に聞かせて欲しい。

こうなった今、それでも彼と恋愛してよかったと思う?

「それは……」

と言ったきり、彼女は口を噤んだ。それが彼女の答えなのだろう。

バレないと思っているのは本人だけ

少しだけ救われたい、誰かに認めて欲しい、きらきらしたい。

ささやかな想いから彼女は彼と恋愛関係に陥った。

唯川恵『男と女 恋愛の落とし前』(新潮新書)
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今更それをとやかく言っても仕方ない。惹かれる気持ちを止められなかったのも、理解できないわけじゃない。けれども代償は大きかった。そして、彼女も彼も、それを受け入れるだけの覚悟がないまま、関係を続けてしまった。

秘密はバレる。いつかバレる。バレないと思っているのは本人だけである。

彼女は、たとえバレたとしても彼は命懸けで自分を守ってくれる、と信じていたようだが、それも期待とは違っていた。

不倫が明るみに出た時、男の方が腰砕けとなるケースは多い。何だかんだ言っても、社会的な信用を失いたくないというのが本音なのだ。

夫の不倫で再構築する夫婦は70パーセント、妻の不倫だと30パーセントというデータを見た。その数字からも、基本的に男は家庭に戻りたい生き物のようである。そういう意味で、彼女の夫もそうであってくれればいいのだが……。

当事者は「不倫ではなく恋愛」と言うけれど…

さて、不倫はした方がいれば、された方もいる。

した方の彼女の言い分は十分聞かされたので、された方で、かつ再構築を選択した何人かの妻たちの、その後の心情も書いておこう。

「表面上は平静を装っているけれど、夫からどんな優しい言葉を掛けられても、もう決して信じられない」
「テレビを見て笑っている夫を見るだけで、たまらなく腹が立ってしまう」
「あれから夫のタオルで床を拭いている、夫の下着は雑巾と一緒に洗っている」
「夫が、病気とか定年退職とか、いちばん大変な時に捨ててやろうと思っている」

聞いて震え上がる夫もいるだろう。

再構築を選んだことと、許されたことは、決して同じではないのだ。

不倫の最中、当事者たちは言う。

不倫だなんて呼ばないで欲しい、自分たちは俗っぽい不倫とは違う、あくまで恋愛なんだから。

しかしそんな不倫こそが、実はもっとも典型的な不倫だということを、肝に銘じておこう。

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