マウスの血管に蛍光色素を入れて調べると、15―HEDEを投与したマウスでは、蛍光色素が血管の外に漏れ出ていることがわかりました。さらに、15―HEDEの投与後のマウスの行動を観察したところ、呼吸困難を示す症状があり、呼吸回数が減って鼻づまりの悪化が見られたのです。

こうしてわかった鼻づまりの原因物質15―HEDEですが、次にこれをターゲットにした薬剤の開発へと向かっていきます。花粉症で悩む患者さんたちにとってさわやかな春が来る日も近いでしょう。

鼻をほじると認知症のリスクが高まる

子供の頃、鼻をほじっていると、病気になるからやめなさいと注意されることがよくありましたが、最近「鼻から入った細菌が原因でアルツハイマー型認知症になる」という研究結果が発表され、注目を浴びています。

認知症の中で最も多いタイプのアルツハイマー型認知症は、認知症の約半数を占めるといわれ、脳の神経細胞が通常よりも早く減ってしまうことで認知機能が徐々に低下していく病気です。物忘れや時間・場所がわからなくなるなどの症状から始まり、悪化すると暴力や家庭崩壊にもつながりかねません。

アルツハイマー型認知症に感染症が関わっている可能性は以前から指摘されており、患者の脳にヘルペスウイルスが多く見られたとか、いわゆるカビのような真菌感染が見られたとかいう報告はこれまでもありました。

オーストラリアのグリフィス大学の研究チームは、アルツハイマー型認知症の患者の脳には高い確率で肺炎クラミジアが見られるという報告をもとに、肺炎クラミジアをマウスの鼻腔に塗りつけ、この細菌がアルツハイマー型認知症の原因かどうかを調べる実験を行いました(※3)

※3 Chacko A, et al. Chlamydia pneumoniae can infect the central nervous system via the olfactory and trigeminal nerves and contributes to Alzheimer's disease risk. Sci Rep. 2022; 12(1): 2759.

細菌は、傷ついた鼻粘膜から脳に達する

その結果、鼻腔に付着した肺炎クラミジアは、マウスの「きゅう神経」を伝って脳に侵入し、鼻粘膜に感染してから24~72時間以内に脳への感染が起こっていました。しかも、肺炎クラミジアに感染したマウスの脳細胞は、感染症に反応してアミロイドβという成分を放出し脳組織に沈着させ始めたのです。

古解剖学の本からヘッドセクションの写真
写真=iStock.com/Nikola Nastasic
※写真はイメージです

このアミロイドβはアルツハイマー型認知症の症状に関係が深いと信じられているタンパク質の塊のようなものです。この物質が神経細胞の外側に沈着すると、神経細胞が自殺して壊れ、記憶力や認知力が低下していくといわれています。

この現象は、特に鼻の内部組織が傷ついている場合によりはっきり見られました。つまり、アルツハイマーの原因となる細菌は、傷ついた鼻粘膜から脳に達し、アルツハイマーの原因をつくった、という話なのです。

鼻粘膜につながる嗅神経は、血液脳関門といういわゆる脳と外界とのフィルターを迂回して、直接脳につながっているといわれています。それは脳内に到達しにくい薬を、鼻から投与できるといった利点もある反面、細菌やウイルスが検問にひっかかることなく、脳の中に簡単に入っていけることを示しています。