日本国内に146万人以上のいるといわれる、ひきこもりの人たち。コロナ禍で世界中にもhikikomoriが急増し大きな問題になっているが、九州大学の研究チームは「血液検査で、ひきこもりの人は健常者と異なる特徴的なパターンを示すことがわかり、それがひきこもりの重症度とも関係する」ことを発見した――。

※本稿は、中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

バスルームの便器に座り、スマートフォンを使用している女性
写真=iStock.com/coffeekai
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ひきこもりが血液検査でわかる⁉

本稿では「もっと知りたい人体のこぼれ話」をご紹介します。まずは血液のお話。ひきこもりは、オックスフォード辞書でも「hikikomori」と表記されており、和製英語として普通に使われる言葉になっています。定義としては、「仕事や学校に行かず家族以外の人との交流をしないまま6カ月以上自宅にとどまり続ける状態である」とされており、日本では146万人以上のひきこもりがいると推定されています。

そういうと、ひきこもりは日本特有のものかと誤解されますが、COVID-19が世界で猛威を振るい、外出や渡航が制限される中、世界中でもhikikomoriが急増し大きな問題になっています。

そんなひきこもりについて最近、九州大学の研究チームが新事実を発見しました。日本人のひきこもりは健常者と異なる特徴的なパターンを示すことが血液検査でわかり、それがひきこもりの重症度と関係することが示されたのです。

私たちの救急外来にも、多くのひきこもり状態にある患者さんが運ばれてきます。社会との関係を完全に断ち切っているわけではなく、インターネットなどでつながっている人もいます。「ひきこもり」とは病名ではなく状態です。発達障害、適応障害が原因である場合もあり、精神科的介入が必要なうつ病や統合失調症が原因である場合もあります。したがって、治療には多方面からの介入が必要となりますが、これまでは主に社会的・心理学的アプローチが取られてきました。

しかし、血液成分の変化があるのであれば、医学、生物学的な要因が根底にあるかもしれず、内科的にアプローチができる可能性が出てきました。

九州大学の研究チームは、日常的な内服薬を使っていないことを条件に選ばれた、ひきこもり状態にある42人と健常者41人の血液を採取し、成分の比較を行うことにしました。

結果、特にひきこもり男性の血液では、アルギニンの値が低く、アルギニン分解酵素とオルニチンの値が高くなっていました。

アルギニンは主に鶏肉や豚肉、エビ・カニなどの魚介、大豆などに多く含まれ、体内で一酸化窒素を作り出し、血流をスムーズにする重要な栄養成分です。体内ではアルギニン分解酵素によってオルニチンと尿素に分解されることが知られています。

ひきこもり男性の血液ではアルギニン分解酵素が増え、アルギニンがどんどん分解されてしまい、分解産物のオルニチンが増加していると予想されます。アルギニンがなぜひきこもり患者でどんどん壊されるのかはわかっていませんが、サプリメントなどでアルギニンを補給すれば、ひきこもりの症状が良くなる可能性があります。