細菌やウイルスにとって鼻粘膜は「絶好の近道」

新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)感染後、うつ病や頭痛、Brain Fog(頭にモヤがかかったようにぼんやりする症状)といわれる後遺症に悩んでいる患者は数多くいますが、こういった鼻からの経路で脳内にウイルスが入った結果であると考えている研究者もいます(※4)

※4 Marshall M. COVID and the brain: researchers zero in on how damage occurs. Nature. 2021; 595(7868): 484-485.

しかし、これはあくまで動物実験で、直接鼻をほじることが認知症の原因であると断言はできません。とはいえヒトでも同様のことが起きるであろうことは容易に想像できます。

鼻粘膜は細菌やウイルスにとっては脳に入る絶好の近道なので、鼻をほじったり、無理に鼻毛を抜いたりして鼻腔上皮が傷つくと、こうした病原体の脳への侵入を促進させる可能性は十分にあるでしょう。

歯磨きしないと糖尿病リスクが高くなる

目、鼻と来て次は口…ですが、口の中でも歯に絞ってお話をします。

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写真=iStock.com/busracavus
※写真はイメージです

医師の中には耳鼻咽喉科や眼科など特定の臓器や器官を専門とする特殊な医師もいますが、歯科医師はそれらの医師とも違って、医師とは全く別の「歯学部」という独立した課程で教育されます。法律上も医師が「医師法」によって規定された資格である一方、歯科医師は「歯科医師法」によって規定された資格です。

日本では1874(明治7)年に初めて医師資格付与制度ができましたが、そのときには歯科医師と医師は分かれていなかったようです。その後、医師法が制定された際に歯科医師は含まれず、現行のように医師と歯科医師が分かれた状態になっていますが、なぜ医師法に歯科が含まれなかったか、その理由は明らかではないそうです。

私たち医師は、歯の欠損部の修復、金属など人工物の被せ物や詰め物、入れ歯などの治療、歯列矯正といった治療は法的に行うことができません。歯科医師のみができます。こういった知識や技術の特殊性から、分岐していったのではないかと考えられています。

さて、歯の話に入りましょう。突然ですが、糖尿病と歯周病が密接に関係していることを知っている人はどれだけいるでしょうか。

そもそも、歯周病は口内にたまった歯垢が引き起こすものです。歯垢というのは、食べかすの中で増殖した細菌の塊ですが、この歯垢が慢性的な炎症を起こし歯周病の原因となるのです。炎症が起きると、サイトカインという炎症物質が、血糖を下げるホルモンであるインスリンの働きを妨げ、糖尿病を引き起こします。