安倍晋三元首相が2022年7月に死去してから1年以上が経過した。安倍氏が残した“遺産”はこれからどうなるのか。評論家の八幡和郎さんは「安倍氏は『保守派の愛国者』でありながら、立場の違う人とも対話できる稀有な政治家だった。しかし残念ながら、現在、安倍氏のレガシーは保守派だけに独占されている」という――。
岩盤保守層をがっちり押さえた安倍元首相
安倍晋三元首相は、岩盤保守層の支持を大切にした。首相在任中は、30%の保守層の支持を得て政権が倒れない下支えにし、選挙のときはより幅広い50%程度の支持を獲得して議席を伸ばした。
テレビ朝日の世論調査によると、2012年の再登板以降、支持率が68~29%と乱高下したが、これはかなり意図的にメリハリを付けた結果だった。
「戦後レジームの克服」「東京裁判史観からの脱却」「自主憲法の制定」など威勢のいいスローガンを叫び、国会では大臣席からヤジを飛ばし、秋葉原で「安倍やめろ」コールに演説を妨害されたときは「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と応じた。
岩盤保守層を確保しておくことは、国民に不人気だがやらねばならない政策を実行したり、「モリカケ桜」のようなスキャンダルによる“冬の時期”を乗り切ったりするには役に立つが、選挙に勝つには不十分である。
野党政権を望んでいる国民は1割しかいない
そこで、安倍氏には中道リベラルにも支持される別の顔があった。20年9月の安倍氏退陣時の朝日新聞世論調査によると、実績評価について71%が「評価する」と答えた。22年7月の暗殺直後の世論調査でもあまり変わらず、安倍政権に対する国民の高い満足度を証明している。
この国では、選挙で野党に投票する人が野党政権を期待しているわけでない。前回の衆院選時の共同通信の世論調査(21年10月)では、与野党逆転を望むのは11.4%に過ぎず、与野党伯仲が49.4%、与党が野党を上回るが34.6%だったので、自公連立政権が過半数ぎりぎりで継続することを望んでいる。
そんな不安定な政権は大胆な政策は取れず、海外からも信用されないので国民意識のレベルが問われるが、どっちにしても野党政権を望んでいるのは10%強ということだ。