学歴コンプレックスの裏返し

やがて妻の親に「こんな娘を嫁に出した責任をどう取ってくれるんですか」と堂々と電話し、限界を感じた妻が離婚調停を申し立てると「無知な妻を指導しただけです。私の言っていることは科学的に正しいのです」と長文の手紙で弁明。

ところが、現実の調停では「調停委員とまともに話せない」という真の姿を現す。ネットで調べてきた浅い知識をボソボソと喋り、自分の意見すらきちんと論理立てて話すことができない。

実は、論破系モラハラ男は「多くの場合、その裏にあるのは学歴コンプレックス」(堀井さん)で自分に自信が持てないため、おとなしい妻に対して自分の賢さを強調して出口の見えない説教を繰り返すのだという。

堀井さんはこう書く。「このタイプの夫は、職場にも学生時代にも友達が一人もいないのが大きな特徴です。人との会話に不慣れで、そのため自分の気持ちを伝える手段が支離滅裂な『論破』以外になかったのかもしれません」。モラハラは、相手の感情を無視して一方的なコミュニケーションを押し付けるがゆえの帰結、「支配」なのだ。

「一見ジェンダー平等」の裏にあるもの

令和バージョンのモラハラ夫、キーワードその2は「一見ジェンダー平等」。男女平等を受け入れたふうでいて、根っこは伝統的な価値観に囚われているのである。

共にコンサルティング会社に勤め、同期で結婚した夫婦のケース。結婚後も妻がキャリアを継続することに「もちろんいいよ、家事も分担しよう」と言っていた夫は、やがて妻が大きなプロジェクトの担当に抜擢されて多忙になり仕事の愚痴を口にすると「仕事を続けたいって言ったのは君じゃないか」「君が仕事を辞めたら生活費はどうするんだよ」と怒り出し、挙げ句「自分が偉いとでも思ってるの?」とリモコンを投げつけたという。

しばらく平穏な生活が続いたのち、妻が出産を希望すると「君が育てるならいいんじゃない」との返事。しかし「共働きなんだから、家計は平等」と生活費をきっちり折半する方針は頑なに変えてくれず、産休に入って収入の減った妻は貯金を切り崩して生活費を支払い続けた。「君が希望して産んだ子なんだから」と、出産費用も子どもの服やおもちゃも全て妻の負担で、妻が目の前にいる時は子どもが泣いていても頑として手を出さず、妻に任せたままスマホをいじって抱き上げようともしなかった。

ここで感じられるのは、時代に合わせて男女平等を受け入れているように見えて、実際には妻が対等な収入を得ていることにプライドが傷ついてしまった男の姿だ。「男女平等なんでしょ?」とばかりに、自分は家庭に必要以上のお金も労力もかけなくなることで、消極的な「制裁」を加えるのである。妻の子育てを手伝わないのは「だって自分が選んだんでしょ」「それは自分で招いた結果でしょ」との当てつけ。モラハラ夫とは、妻に精神的な攻撃を加えることで、傷ついたプライドを懸命に癒やす男の姿でもあるのかもしれない。