桜木家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。ギャンブルを楽しんでいるうちは良いが、「お金を稼いでやろう」「損した分を取り返してやろう」と考え始めた時、人は短絡的思考に陥っていると考える。

桜木さんは就職後、同期の友達とギャンブルにハマっていき、「短絡的思考」に陥り、次第に会社内でも「断絶・孤立」し、ついに退職に追いやられる。それでも桜木さんは、ギャンブルで借金を作ってしまったことは、両親には言えなかった。そこには確かに自分に対する羞恥心があった。

とはいえ、これは「家庭のタブー」というよりも、桜木さん自身のタブーだ。桜木さん自身が育った家庭には、タブーはなかったのだろうか。

「確かに、両親は結構な額をギャンブルにつぎ込んでいましたが、借金するほどではなく、私の家庭自体に大きな問題はなかったと思います。可能性としてあるとしたら、僕自身、お金に対する依存が強かったことでしょうか。家族でパチンコに行っても、私のお金が尽きたときはいつも両親から追加のパチンコ資金をもらっていました。そして、そのお金を全部スッてしまっても、両親に返すことはなく、両親から返せと言われたこともありませんでした。一方でわが家は、周りの友達に比べてお小遣いが少なく、友達と遊びに行った際に、自分だけ好きなものを食べたり買ったりできないことがよくありました。そのためか、働き始めてから『もっとお金が欲しい』という気持ちが強くあったんです。それがギャンブル依存につながったのではないかと……」

そう言ったあと、桜木さんは少し声のトーンを落とす。

「あとは、僕は承認欲求が誰よりも強い気がします。実は、3歳上の兄が昔から優秀な人で、大学院まで行き、父と同じインフラ系企業の幹部候補にまでなっているんです。父はそんな兄が大好きで、同じ会社にいることもあり、会うといつも仕事の話で盛り上がります。正直、私はその光景を見るのが嫌いでした。

私は高卒で化学系の会社に入り、それなりの年収を稼いでいましたが、どこか父に認められていない気がしていました。ギャンブルは、自分の承認欲求を満たす効果があります。自分で台や馬を選び、大当たりを引いたり勝負に勝ったりしたときは、最高に承認欲求が満たされます。いずれにせよ、自分のコンプレックスがギャンブル依存症を引き起こした原因だったのではないかと思います」

幼少期から家族でギャンブルを楽しんでいた桜木さんは、ギャンブルに対する抵抗がなかった。

「僕は、お金に関する教養があれば、ギャンブルも借金もする可能性は下がると考えています。実際に私は、お金の稼ぎ方と借金について学び始めたことでギャンブルをやめられました」

副業を始めたこともギャンブルをやめられる一助となった。会社で“働かせてもらう”のではなく、“自分でお金を稼ぐ実感を得ること”が重要なのかもしれない。

幼少期から、ギャンブルに触れる機会が多かったこと。ギャンブルで大金を使う割には、普段のお小遣いが少なかったこと。そして兄に対するコンプレックス。これらが絡み合って、桜木さんはギャンブル依存症になってしまった可能性が高い。

そんな夫の変化に気づいているのか、妻はあまり、「どーせ、嘘でしょ?」とは言わなくなった。

「最近もたまに言うこともありますが、だいぶ回数は減りました。本当によくできた妻だと感心しています。僕は本当に恵まれています。借金を肩代わりしてくれた両親。こんなバカな夫と一緒にいることを選んでくれた妻。そして子どもたち……。ギャンブルをすることで失いそうになった人たちを、これからは全力で大切にしていこうと決意しました」

4年前に両親から借りた300万円は、現在残り170万円になっている。ギャンブルをやめられた一因には、かけがえのない自分の家族を得られたことも関係しているだろう。少なくとも兄に対するコンプレックスと父親に対する承認欲求の渇望は、妻や子どもたちによって満たされているはずだ。

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