まるでオレオレ詐欺
家を飛び出した桜木さんは、コンビニの駐車場に車を停め、1時間くらい1人でいろいろと考えた。
「この先のことを考えていました。妻や子どもたちと別れて自分1人で生きていくこと。もしも自分と別れたら、妻と子どもたちがどうやって生きていくことになるのか……。しかし、どちらも想像することすらできませんでした」
何度も想像しようとしたが、できなかった。桜木さんは、なぜできないのかを考えた先に、“ある思い”があることに気付く。
「妻と子どもたちとこの先も一緒にいたい」
はっとした桜木さんは、今まさに失いそうになっている妻と子どもたちと、「これからも一緒にいたい。ともに生きていきたい」「1人になりたくない」「失いたくない」という一心で、急いで家に戻り、父親の携帯電話に電話をかけた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
電話に出た父親は、母親と車で外出していた。父親は運転中だったため、桜木さんは母親の携帯電話にかけ直した。すると両親は、桜木さんがなぜ電話をしてきたのか、心配そうな様子で次の言葉を待っていた。それもそのはず、桜木さんは話しながら泣き出し、震える声で電話をしていたのだ。
そんな中、桜木さんは、嗚咽しながらギャンブルで300万円の借金を作ってしまった経緯を話し終える。黙って聞いていた母親は、「はぁ? 何やってんのあんたは!」と呆れて声を上げた。続けて、「あなた本当にうちの息子? オレオレ詐欺じゃないの?」「本当にギャンブルに使ったの?」と質問攻めに。そして運転しながら、「何か他のことに使ったんじゃないか?」と言う父親。
「借金を両親に立て替えてもらわなければ、妻に離婚すると言われている」と伝え、「絶対に返すから、借金の肩代わりをお願いしたいんだけど……」と桜木さんが言うと、沈黙の後に、「少し考えて折り返し連絡します」と母親は言い、電話を切った。
「僕は、『何だかんだ言っても親だし、すぐにお金を出してくれるだろう』と高をくくっていました。本当に親不孝者です」
数時間後、父親から電話がかかってきて、「借金を立て替えるから、やり直せ」と言われ、桜木さんは胸をなでおろした。続いて母親から、「借金の詳細をメールしなさい」と言われる。
桜木さんはすぐにメールを送り、返信を待った。
しばらくすると、「反省文と、今後、絶対に借金しないことを誓約書に書いて誓ってください。それを見て借金の清算をするかを決めます」という返信が届く。
桜木さんはすぐに反省文を書き、「今後はまっとうに生きていきます」という旨を記した誓約書も一緒に同封し、両親へ郵送。
その翌日、妻は陣痛が始まり、桜木さんが運転する車で病院へ向かう。そのまま桜木さんは妻に付き添い、約6時間後に第2子が誕生。
「1人目と同様、感動して涙が出ました。そして、自分がこれまでやってきたことを後悔し、妻や子どもたちを泣かせることはもう二度としないと心に誓いました」
第2子の誕生を喜んでいると、母親から「お金を振り込むので口座を教えてください」と連絡があった。桜木さんはようやく一息つくことができた。
しかし、ここからがつらい日々の始まりだった。