防衛大学校には「棒倒し」のイベントがある。卒業生で元自衛官のぱやぱやくんさんは「防大の棒倒しはスポーツではなく、ただの合戦だ。優勝するとたくさんの恩恵が得られるため、毎年棒倒しに魅せられる学生が誕生する」という――。

※本稿は、ぱやぱやくん『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

防大の棒倒しはスポーツではなく、ただの合戦

学生生活における最大のビッグイベントは、ズバリ「棒倒し」です。

棒倒しとは、シンプルに言えば、相手チームの棒を先に倒したほうが勝ちになる競技です。棒倒しは学校の運動会などで行われることが多く、経験した方も多いと思います。

しかし、防大の棒倒しはスポーツではなく、ただの合戦です。

日頃から身体を鍛え、健康でパワーのあり余っている血気盛んな若者たちが「キェェェー」と棒に突撃し、防御側は「ウラァ!」と自動車を吹っ飛ばすハルクのように敵を撃退します。とにかく攻防が激しいため、うかうかしているとマッチョの洗濯機で揉みくちゃになり、意識がブラックアウトします。

もちろん、安全のため殴る蹴るの暴力は禁止されていますが、乱闘状態も偶発的に発生することが多いです。「跳び蹴りではなく、跳んだ勢いで脚が強く当たっただけ」「腕を振り回したら、相手の顔面に当たった」などの不幸な事故も多発するため、棒倒しで気を抜くと死ぬと言われています。しかし、学生はアドレナリン全開なので、感じるのは興奮だけです。

そんな棒倒しの知られざる世界を、皆様に解説していきましょう。

棒倒し競技会
棒倒し競技会(出典=防衛大学校HP

優勝するとたくさんの「恩恵」が得られる

棒倒しは4個大隊(1〜4大隊)の学生舎ごとにチームが分けられ、毎年11月に行われる開校記念祭にて「1発勝負のトーナメント方式」で競技が行われます(開校記念祭とは学園祭のようなもの。一般の方も来校可能です)。

棒倒しで優勝すると、「棒倒し優勝大隊」といった看板とトロフィーがもらえ、「俺たちが優勝した!」と凱旋がいせんパレードをしながら校内を練り歩くことができます。防大において棒倒しで優勝することは、ワールドグランプリ優勝に匹敵する価値があり、優勝した大隊の学生は、他大隊への優越感からご飯も1.2倍ぐらい美味しく感じられます。

また、指導官から恩恵として「就寝点呼(寝ながら点呼を受けられる)」「自習時間中にお菓子パーティーを1回だけ行ってもいい」を受けられます。さらに「制限されている外泊の回数が1回増える」などの嬉しいサプライズや、「上級生が少し優しくなる」という環境面での恩恵があります。

まるで中南米にある刑務所の受刑者が享受するようなメリットですが、防大は娯楽があまりにも少ないため、このような恩恵を考えるだけで学生の頭は快楽物質で痺れ、パブロフの犬のようにヨダレを垂らし、夢心地になってしまいます。