スポーツ選手が息子、娘に同じ競技をさせたがるように、自身と同じ職業に就かせたがる親がいる。スポーツ臨床心理士のリチャード・D・ギンズバーグさんは「親子と言えど才能や特徴はそれぞれ異なる。無理強いをすれば、子供は自分らしさを犠牲にすることになる」という――。

※本稿は、リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

落ち込んだ、悲しい、不幸な10代の少女。
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バスケ選手の母親のもとで育った2人の娘

同じ家族でも、親によく似た子どももいれば、全く似ても似つかない子どももいます。親は自分に似た子どもに目をかけ、似ていない子どもにはかまってやらず、疎外感を与えてしまうこともあります。

親には子どもを傷つけたり、分け隔てて愛情を注いだりするつもりがなくても、他のきょうだいのほうがかわいがられていると誤解してしまう子どももいます。

15歳の少女、ホリー・バーンスタインの場合がそうです。2歳年下の妹のティナは、母親とよく似てスポーツ万能。ホリーもずっとそこそこの活躍を見せてきましたが、スポーツの才能ではホリーはとてもかないません。

数週間前からずっと、母親とホリーの関係はうまくいっていません。2人でたびたび言い争うようになり、バスケットボールのことになると特にそうです。

母親はホリーがユースから中学校までずっと続けてきたバスケットボールをやめると言い出したことを心配しています。そのうえ成績まで落ちてきていて、それは学業優秀なホリーには考えられないことでした。

母親はホリーとの関係を修復したいと思っていますが、当人の気持ちに気づいてやることができません。

長女に母親ほどのバスケの才能はなかった

ホリーは、スポーツ選手として自分には母親や妹ほどの才能がないのだと悟ってしまったのです。そう気づいたことで疎外感を覚え、自分は価値のない存在なのだと思うようになっています。

ホリーは、母親のような優れた選手になろうとずっと頑張ってきましたが、その目標に手が届いたことはありません。

母親は、高校時代に全米代表入りして大学でもスター選手として活躍し、誰もが憧れる存在でした。その娘であるホリーは、母親からはもちろん、ほとんどのチームメイトからも、同じようにすごい選手になると期待されていました。

ところが、だんだん、ごくふつうの選手にすぎないことが明らかになってきます。練習の前後にもトレーニングを重ねていましたが、あまり上達は見られませんでした。

うまくなれない自分に失望し、ホリーは母親の期待に応えるのは無理なのだと思うようになります。