飲食店やスーパーなどで従業員に悪質なクレームを言ったり嫌がらせをしたりする行為をカスタマーハラスメント(カスハラ)という。犯罪心理の専門家である桐生正幸さんは「店員にキレる客を誰しも見たことがあるように、カスハラは日本で大量発生している。特に2020年、新型コロナウイルスの感染拡大期はカスハラが多発した」という――。

※本稿は、桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

なぜ日本ではカスハラだけが容認されているのか

カスハラの実態に関するいずれの調査を見ても、加害でも被害でもカスハラ経験があると答える人の多さに驚かされる。たとえば、自身の働いている業界の7割の従業員がセクハラ被害に遭っていると知ったら、異常事態だと誰もが思うはずだ。それなのに、カスハラだけは容認されていることがよくわかる。

「先生の『お客様と私たちは対等である』という言葉には、本当にびっくりしました。いままで、そんなことを一度も思ったことがなかったので」

講演会のあとにいただいた感想の一つだ。それを聞いて、あらためて日本のカスハラ問題の本質をつきつけられた感じがした。日本では会計でも注文でも、いつもお店の人が、お客を大切に、腫れ物に触るかのように扱う。マニュアルどおりの礼儀作法を守らないと「丁重に扱われている」気がしない接客の関係ができあがっているのだ。

ややもすれば、客を必要以上に大事にしてしまう癖が、日本人には無意識のうちに刷り込まれてしまっているかのようでもある。消費者の方も「店は客を大事に扱うのが当たり前」のように思っている。

スーパーマーケットでのマスク
写真=iStock.com/shironosov
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コロナ対策に非協力的な“お客様”が店にやってきた

近年、多様化しているカスハラに、さらに大きな変化が起きている。

その原因こそ、世界中の人々に多大な影響を与えることとなった新型コロナウイルスのパンデミックだ。コロナによって新しいカスハラの形が出現したとも言える。その典型例をいくつか紹介しよう。

・店舗で開催していたイベントがコロナ対策の一環で中止になった。それに伴い、イベント期間中に対象商品を買うと押せるスタンプカードのサービスも中止に。レジで問い合わせてきたお客様に説明したら「ふざけるな! なに言い訳してるんだ、コロナ関係ねえだろう!」と怒鳴られた。

・食品売り場で研修中のパートにレジ打ちを教えていたら、お客様が近づいてきて「なにやってるんだよ!」と怒鳴られた。説明しても言いがかりを何度も繰り返し、「ここは暇なんだな、おまえ、ババアだろ! ババアじゃないか!」と大声で喚いて近づいてくる。「コロナうつしてやろうか!」と至近距離に近づいてきたので、慌てて保安係に連絡をした。

・飲食店のため、お客様にはマスク着用のほか、体温チェックとアルコール消毒もお願いしている。そのすべてに非協力的なお客様が「そんなの無意味」「国が決めた法律じゃないから知らない」と言い出した。他のお客様と従業員の安全を考慮して入店をお断りしたところ、怒り出して「裁判でも勝てる!」と言い出した。結局、警察官を呼んで対応を任せるほかなかった。

・マスク着用をお願いしても、マスクをしてくれない。暴言を吐き、食べていたお菓子を撒き散らかす、台を叩くなどの行為を繰り返していた。

・マスクなしでクレームをつけるお客様。興奮して唾を飛ばしてまくしたてられ、飛沫ひまつが気になった。