症状が改善してからもリスクを抱える

繰り返す麻疹の感染拡大の中で、麻疹に感染したあと、治っても問題があることに注目されるようになっています。

例えば、イギリスでは2013年から麻疹ワクチン接種率が低下し、麻疹患者が増加しました。そして2017年から2019年までの3年間に、麻疹を経験した子供6人が麻疹後の脳炎であるSSPE(亜急性硬化性全脳炎)を発症しました[13]

現在、SSPEに対する効果的な治療法は存在しません。

全ての患者が発症後6カ月以内に発作などの症状を呈し、認知機能が低下しました。SSPEの発症率は麻疹感染者数万人に1人であり、確かに数は少ないですが、麻疹感染からSSPEの発症までの期間は中央値で3年(範囲は2~6年)と報告されており、長い心配が残ると言えます。

さらにもう一つの懸念があります。

麻疹ウイルスは特殊な特性を持ち、感染後数週間、麻疹に感染をした人の免疫機能を強力に抑制します。そして免疫細胞の記憶を損なう作用も示し、何年もの間、“免疫の健忘状態”になることが知られています。つまり、麻疹以外の感染症に対しても感染しやすくなるということです[14][15]

例えば、オランダの研究によれば、麻疹を経験した子供は、麻疹が治った後1カ月以上で40%以上、1年以上で20%以上の確率でさまざまな感染症を発症しやすくなることが報告されており、その影響は5年間も続くことが示されています[16]。

病院の廊下を歩く医療従事者たち
写真=iStock.com/sudok1
※写真はイメージです

23歳~51歳の人は予防接種を検討したほうがいい

長い麻疹との戦いの中で、我々は予防接種という大きな武器を手に入れました。

しかし、予防接種率が下がってきて再度の流行が起こるという事態が繰り返されています。

そして現在、世界では麻疹の患者が高まり、そして急増してきています[17]

日本でも麻疹予防接種率が下がってきていることが報告されています[18]。すなわち、日本も例外ではなく、麻疹が流行するリスクが高まっていると言えます。

麻疹は、決して軽くない感染症です。

51歳以上の人は予防接種が未接種の可能性、23歳~51歳の方は1回接種のみの可能性が高く、そして、もしかすると定期接種の麻疹予防接種を延期したままの方もいらっしゃるかもしれません。年齢に応じた接種状況の詳細については、「こどもとおとなのワクチンサイト」にある表を参考にしてみてください。

一部の自治体では接種費用の補助をしている場合もあります。感染のリスクがさらに高まりワクチンが不足する前に、かかりつけ医の医師に予防接種をご検討いただくことを願っています。

参考文献
[1]Biggerstaff M, Cauchemez S, Reed C, Gambhir M, Finelli L. Estimates of the reproduction number for seasonal, pandemic, and zoonotic influenza: a systematic review of the literature. BMC Infect Dis 2014; 14:480.
[2]Perry RT, Halsey NA. The Clinical Significance of Measles: A Review. The Journal of Infectious Diseases 2004; 189:S4-S16.
[3]麻しんについて(厚生労働省)2023年6月19日アクセス
[4]森戸やすみ「すれ違うだけで感染することがある麻疹の患者が発生…子供のワクチン接種率の回復が急務なワケ」(プレジデントオンライン)2023年6月19日アクセス
[5]多屋馨子. 感染症 今月の話題 2012年麻疹排除にむけて. 小児科臨床 2012; 65:335-46.
[6]栗村敬. ROOTS & ROUTES(第79回) 麻疹の現在. 臨床と微生物 2022; 49:085-6.
[7]Measles(CDC)2023年6月19日アクセス
[8]Berche P. History of measles. La Presse Médicale 2022; 51:104149.
[9] Godlee F, Smith J, Marcovitch H. Wakefield’s article linking MMR vaccine and autism was fraudulent. British Medical Journal 2011; 342:c7452.
[10]Hviid A, Hansen J, Frisch M, Melbye M. Measles, Mumps, Rubella Vaccination and Autism. Annals of Internal Medicine 2019; 170:513-20.
[11]砂川富正.ワクチンによる麻疹、風疹の排除とムンプスのコントロールに関する今後の課題.臨床とウイルス 2016; 44:40-6.
[12]van Boven M, et al. Estimation of measles vaccine efficacy and critical vaccination coverage in a highly vaccinated population. Journal of the Royal Society Interface 2010; 7:1537-44.
[13] Pediatric infectious disease journal 2023; 42.
[14]Diane E Griffin, et al."Measles virus-induced suppression of immune responses". Immunol Rev. 2010 Jul;236:176-89
[15]Michael J Mina, et al."Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens" Science. 2019 Nov 1;366(6465):599-606.
[16]Kartini Gadroen, et al."Impact and longevity of measlesassociated immune suppression: a matched cohort study using data from the THIN general practice database in the UK" BMJ Open. 2018 Nov 8;8(11):e021465.
[17]Nearly 40 million children are dangerously susceptible to growing measles threat(WHO)2023年6月19日アクセス
[18]麻しん風しんワクチン接種状況(厚生労働省健康局健康課,国立感染症研究所感染症疫学センター)2023年6月11日アクセス

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