予防接種の導入前は毎年200万人が亡くなっていた
ようやく麻疹がウイルスによる感染症と証明されたのは1911年で、1954年にウイルスが特定されました。
しかし当然、当時は予防接種はありませんでした。予防接種が導入される前の1963年、麻疹は世界で年間3000万人が発症し、毎年200万人が亡くなっていたと推定されています。
そして1963年に、米国で待望の初のワクチンが認可されました。効果は高く、麻疹で亡くなる方が激減したのです[8]。
そのようなか、1998年に英国の医師アンドリュー・ウェイクフィールドは、麻疹を含む3種混合ワクチンを接種した小児に自閉症が発症しやすくなるのではないかという研究結果を発表しました。そしてこの研究結果は、麻疹の予防接種率が大きく低下をする要因となりました。
しかし、この研究結果は捏造でした。金銭的な利害関係があるウェイクフィールドが、研究結果を改ざんしていたのです[9]。ウェイクフィールドは医師資格を剥奪され米国に亡命しました。現在では麻疹予防接種が自閉症の原因にならないことは、さまざまな研究ではっきりしていますが、未だにこの事件は尾を引いているのです[10]。
95%の人が2回接種する必要がある
麻疹は、きわめて感染力のつよい感染症です。
「基本再生産数」という、感染性のある病原体がどれくらい広がりやすいか表現するための基準があります。
たとえば、基本再生産数が1.5とは、その感染症が治るまでに1.5人に感染させてしまうということです。ざっくり表現するならば、借金100万円が150万円になる感じでしょうか。1以上であれば流行が広がり、1未満であれば流行が収まるということですね。
この基本再生産数は、季節性インフルエンザでは1.28という研究結果があります[1]。
そして麻疹の基本再生産数は12~18です。すごく高いですよね[11]。
すなわち、麻疹の予防接種の有効性はあるとはいえ、麻疹の予防接種率も高めなければ感染の拡大を十分に防ぐことができません。感染拡大を防ぐためには、95%の人が2回接種をする必要性があるのです[12]。
そのため、1989年から1991年にかけて米国では麻疹が再度流行しました。
患者数5万5000人、死亡者数123人までになったのです。全国的な麻疹予防接種を2回行うというプログラムが実施され、麻疹は1994年に958人、1996年に508人に減少しました[8]。
しかしその後も各国で、麻疹予防接種が高まって麻疹の拡大が抑えられるものの、再度予防接種率が下がり感染が広がるという状況が繰り返されています。