イーロン・マスクは2022年10月にTwitter社を買収。当時の役員など大規模なリストラを行ったが、会社の価値は50%ダウン。Twitter上で自らの信任投票を行い、CEO不信任という結果が出た。経営コンサルタントのロッシェル・カップさんは「マスク氏は2023年5月、後任CEOに女性を指名したが、これは女性に責任を取らせる『ガラスの崖』ではないか」という――。

欧米メディアも新人事を典型的な「ガラスの崖」と見る

イーロン・マスク氏がツイッターの後任のCEOを見つけたと発表し、しかもそれが女性だと聞いたとき、私の頭に最初に浮かんだのは、これはいわゆる「glass cliff(ガラスの崖)」と呼ばれる状況の典型例かもしれないということだ。

これは、私が特に独創的に考えたわけではない。ツイッターでは、同じ内容のツイートが数多く投稿され、あるツイートには3万4000を超える「いいね」がついた。そして、『ワシントン・ポスト』や『フォーチュン』などの出版物にも、同じテーマの記事が掲載された。リンダ・ヤッカリーノ氏が「失敗者に仕立て上げられている」「手榴弾を渡された」「ライオンの口に一歩入った」というコメントは、少なくとも米国の人々の間では、このニュースに対するよくある反応であったようだ。

女性の管理職登用を阻む、目に見えないが根強い壁である「ガラスの天井」は、多くの人が知っている。一方、ガラスの崖は、特に日本ではあまり知られていない。

危機のとき女性がトップに起用され責任を取らされる

ガラスの崖とは、女性だけでなく、不特定多数のマイノリティーも、組織が危機的状況に直面しているとき、つまり失敗の可能性が高いときにリーダーの席に採用されやすいという説である。崖の比喩は、女性が高みに登ったものの、山の頂上にいるのではなく、足元で砕け散るか、滑りやすいことが判明して転げ落ちるような崖の上にいることを表している。多くの場合、ガラスの崖の位置は勝ち目のない状況であるため、努力が失敗したり、結果が出るのが遅かったりすると、その女性は解雇を含む責任を取らされることになる。

この言葉は、2005年にエクセター大学のミシェル・ライアン教授とアレックス・ハスラム教授によって作られたもので、それ以来、有名な例がたくさんある。シリコンバレーでは、ヤフーのマリッサ・メイヤー、Redditのエレン・パオ、ヒューレット・パッカードのメグ・ホイットマンなどがいた。英国政界ではテリーザ・メイやリズ・トラスがいた。日本では、苦境に立たされた三洋電機のトップに抜擢された元テレビキャスターの野中ともよが良い例だろう。