育児で「何をやっても怒られる」とうなだれる父親たちがいる。産業医で産婦人科医の平野翔大さんは「日本は男性を育児から排除してきた。このため男性が、妊娠・出産・育児の知識を学ぶのは、非常に難しい。『父親が不勉強』と断じる前に、その父親自身が置かれている環境に、ぜひ目を向けてほしい」という――。
本稿は、平野翔大『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「何をやっても怒られる」とうなだれる父親
「何をやっても怒られるんです。いろいろ自分なりに調べてやってみたりしているんですが、何をやってもダメ出しされます。どうしたらいいのか分からないんです。全く妻と同じようにやるのは難しいですし……」
このリアルな父親の声を読んだ時、皆さんはどう思っただろうか。実際に、かなり多くの父親から聞いたのが、この「何をやっても妻に怒られる」という声だった。怒られる理由も色々ではあるが、これは決して「育児にコミットする気のない父親が、呆れた妻に言われたこと」ではない。自分自身も育児に強い興味・関心を持ち、ともすれば自分でも色々調べ、育休も取得した、そんな父親のリアルな「声」だ。
なぜ頑張っているはずなのに、「何をやっても怒られる」という状況ができてしまうのか。
実際の父親の声を通じて、少し考えてみよう。
一番多くの父親から聞いたのが、「何を知れば(聞けば)いいのか、それすら分からない」という言葉であった。産婦人科医という職業柄、ヒアリングの最後に時間があれば必ず、「何か聞きたいことはありますか」と質問している。しかし、そこで「結局何が分かっていないのか、分かっていないんです」という方は決して少なくない。
学生の時、苦手分野ほど「先生に質問していい」と言われても「何を質問すればいいかが分からない」という状況になったことがある人もいるのではないだろうか。基本的なことが理解できないと、質問もできず、そこからどんどん苦手になっていってしまう。日本では性教育の不足もあり、まさに男性にとっての「妊娠・出産・育児」がこの状況になっているのだ。