「40週0日が予定日」と言われているが…
「つわりにいい食事」と検索すると、「こんな食事が良い」という具体的な情報は多く出てくる。しかしその情報の中から、「食事の内容より、今は食べられるかどうかが大事」という情報を見つけ出すのは難しい。まさに「メジャーリーグ」に相当する「医学的な情報」である「食べられるものなら何でも良い」と、「草野球」に相当する「個々の経験談」などによる「この食品が良い」という情報が混在しており、この父親は草野球の情報で対処してしまったのだ。
今度は他の父親が、「断片的な知識で判断してしまい、後悔した」と振り返る事例をご紹介しよう。
妊娠に関して比較的よく知られている知識として、「40週0日が予定日」というものがある。「予定日」という言葉から、多くの方は、赤ちゃんがこの日に産まれるようなイメージを抱かれている。実際に父親に「赤ちゃんが産まれるのはいつ頃だと思いますか」という質問をすると、「予定日前後1週間程度」と答える人が最多であった(筆者調べ)。
しかし医学的に正しいのは「37週0日から42週0日であれば『正期産』=産まれても問題のない時期」だ。5週間もの幅がある。しかも一番多く産まれるのは40週ではなく38週であり、正期産のうち、40週0日の前後1週間(39週台・40週台)で産まれるのはなんと半数以下である(※1)(ただし病院における分娩の統計である点に注意)。
実際、出産に備えて40週の近辺でわざわざ予定休暇を取り、37週に最後の出張を組んだものの、その出張中に産まれてしまったという父親の事例を関係先から聞いたことがある。
「37週から産まれる可能性がある」という知識さえあれば、このような事態は避けられたはずだが、「40週が予定日」という断片的なイメージが先行してしまっていたのである。
この事例は「悲しい思い」程度で済んでいるが、知識によっては妊婦や赤ちゃんを危険に晒しかねないものもある。
(※1)周産期委員会報告、日本産婦人科学会誌74巻6号、692-714
「育児ビジネス」に騙されてしまうリスクも
そして残念なことに、まさに投資でいう「怪しいハナシ」、つまり「育児ビジネス」が世界中ではびこっている。
特に精神発達や自閉症に関する領域では、全く科学的根拠のない言説や方法・商品がさも効果的かのように宣伝され、高額で売りつけられている実態がある。すべての育児情報が完璧に医学的根拠に基づいている必要はないが、異様に高額なものや、ともすれば害になりかねないものが存在し、これに騙される人も後を絶たない。
この状況は、父親においては特に強いストレスに繋がりやすいと考えられる。基本的な知識がない中で調べることは、「この情報は正しいのだろうか、自分の今の状況に合っているのだろうか」ということを常に考えなくてはならない。男性は行動を起こす際に、「正しい知識がある」ことを重視する傾向がある(※2)という研究結果もあり、知識に自信が持てない状態での育児には、より強いストレスを感じている可能性もある。
母親であれば定期的に産婦人科医や助産師・保健師と接する機会もあるし、妊婦健診などを通じ関係性も構築できる。しかし父親は、その知識を確かめる先もないし、それ以前に判別する基礎知識も持つのも難しい。
男性にとって、「知識不足」はかなり深刻な問題なのだ。
(※2)柳奈津代ほか、保育園児の家庭における与薬環境向上のための包括指標による評価、JSPS科研費 21K13557