ウクライナ戦争の現場に「必勝しゃもじ」

平和ボケ、日本ここに極まれりという感じだ。

3月21日、ウクライナを電撃訪問した岸田文雄首相が、ゼレンスキー大統領に「必勝」と書かれた「しゃもじ」をプレゼントしたというのだ。

2023年3月21日、キーウ(キエフ)での共同記者会見で文書を交換する岸田文雄首相(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(右)
写真=PAP/時事通信フォト
2023年3月21日、キーウ(キエフ)での共同記者会見で文書を交換する岸田文雄首相(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(右)

この「必勝しゃもじ」は岸田首相の地元の名産で、広島カープの応援する際にも用いられているほか、選挙などでも登場する。実際、岸田首相が2021年に自民党総裁選に出馬した時にも、大きい「必勝しゃもじ」を手にして、報道陣の前でガッツポーズも決めている。

つまり、ウクライナ軍が1万人以上、市民が7000人以上亡くなって、ロシア軍も4万人以上が死んでいるといわれる、この悲惨な戦争を、岸田首相は広島カープの試合や政治家の選挙と同じような感覚で捉えているというわけだ。

ただ、これくらいならば「日本が平和な証しだな」なんて失笑するくらいでいられるが、今回のウクライナ訪問ではちょっと笑えない“平和ボケ”も起きている。

アメリカのジャーナリストは秘密保持を誓った

日本政府は首相の訪問を公表せず、記者団同行もなしということで「極秘」扱いにしていたが、日本テレビはポーランドのジェシュフ・ジャションカ空港で岸田総理を乗せたとみられる車列を撮影していた。また、ウクライナとの国境の町、プシェミシル駅で列車に乗り込む岸田首相の姿は、日本テレビとNHKのカメラがしっかりと押さえ速報ニュースとして流していた。

要するに日本政府の「極秘」扱いだった首相のウクライナ訪問は「マスコミにダダ漏れ」だったのだ。

よく言われることだが、これはアメリカと対照的だ。バイデン大統領も2月に同じルートでウクライナに入っているのだが、この時に同行を許されたジャーナリストは2人だけで、出発の2日前に知らされて、秘密保持を誓わされた。そのうちの1人、ウォールストリートジャーナルのサブリナ・シディキ記者はこう述べている。

「この旅行に同行するたった2人の記者として、AP通信のエバン・ブッチ記者と私は秘密厳守を誓うことになる。計画を知らせることができるのは、それぞれの配偶者と所属する報道機関の編集者1人のみ。ほぼ全行程で私たちの携帯電話は没収されるはずだ」(THE WALL STREET JOURNAL 3月25日)

しかし、日本の場合、秘密厳守もへったくれもない。ポーランドでテレビクルーが待ち構えており、ほぼリアルタイムで「今から岸田首相はウクライナへ向かいます」なんてリポートされるありさまだ。