※本稿は、中島大輔『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)の一部を再編集したものです――。
日本一やメジャーは通過点に過ぎない
世界に類を見ないピッチャーになりたい――。
2022年の春季キャンプが始まる5日前の契約更改で、山本由伸が将来的なメジャーリーグ挑戦を直訴した背景にはそうした野心が秘められている。世界に類を見ないピッチャーになるためには、当然、世界基準で物事を考えなければならない。
プロ入り1年目の4月に初めて会ったときから、山本はそうした発想を持っていたとトレーナの矢田修が証言する。
「もちろん今とはレベルが違いましたけど、見ているところには『世界で一番のピッチャー』がありました。だから、そういう基準で話が進んでいきましたよね。今の活躍にそれほど喜ばないのもそんな理由なんです。日本一やメジャーというのは、目指す過程にあるものなので」
世界に類を見ないピッチャーになるために目指しているのは、誰も投げたことがないボールを放ることだ。
「151キロのフォーク、打てるかー」
実際、山本が投じる球種はどれも独特の色が表れている。例えば、140キロ台後半を計測するフォークだ。
「もともと矢田先生と『150キロのフォークを投げよう』と言っていて、投げられるようになったボールが今のフォークです」
2022年4月2日の北海道日本ハムファイターズ戦で2回二死、6番レナート・ヌニエスに初球で投じたフォークは151キロを計測した。ストレートと同じような軌道で発射され、打者の手元でまさしく消えるようにストーンと落ち、バットは空を斬った。
「151キロのフォーク、打てるかー。初めて見た」
相手チームを率いるBIGBOSSこと新庄剛志監督がそう言い放ったほどだった(同日の日刊スポーツ電子版記事「【日本ハム】新庄ビッグボス『151キロのフォーク、打てるかー』山本由伸に0封負け/一問一答」より)。