WBC日本代表の山本由伸投手は、プロ野球において史上初となる2年連続の投手5冠を達成している。いったい何がすごいのか。スポーツ・ノンフィクション作家の中島大輔さんは「手先ではなく、身体全体で投げている。ゆえに、彼の球は、他の日本人投手とは違う独特の軌道を描く」という――。

※本稿は、中島大輔『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)の一部を再編集したものです――。

豪州戦に先発した山本由伸=2023年3月12日、東京ドーム
写真=AFP/時事通信フォト
豪州戦に先発した山本由伸=2023年3月12日、東京ドーム

日本一やメジャーは通過点に過ぎない

世界に類を見ないピッチャーになりたい――。

2022年の春季キャンプが始まる5日前の契約更改で、山本由伸が将来的なメジャーリーグ挑戦を直訴した背景にはそうした野心が秘められている。世界に類を見ないピッチャーになるためには、当然、世界基準で物事を考えなければならない。

プロ入り1年目の4月に初めて会ったときから、山本はそうした発想を持っていたとトレーナの矢田修が証言する。

「もちろん今とはレベルが違いましたけど、見ているところには『世界で一番のピッチャー』がありました。だから、そういう基準で話が進んでいきましたよね。今の活躍にそれほど喜ばないのもそんな理由なんです。日本一やメジャーというのは、目指す過程にあるものなので」

世界に類を見ないピッチャーになるために目指しているのは、誰も投げたことがないボールを放ることだ。

「151キロのフォーク、打てるかー」

実際、山本が投じる球種はどれも独特の色が表れている。例えば、140キロ台後半を計測するフォークだ。

「もともと矢田先生と『150キロのフォークを投げよう』と言っていて、投げられるようになったボールが今のフォークです」

2022年4月2日の北海道日本ハムファイターズ戦で2回二死、6番レナート・ヌニエスに初球で投じたフォークは151キロを計測した。ストレートと同じような軌道で発射され、打者の手元でまさしく消えるようにストーンと落ち、バットは空を斬った。

「151キロのフォーク、打てるかー。初めて見た」

相手チームを率いるBIGBOSSこと新庄剛志監督がそう言い放ったほどだった(同日の日刊スポーツ電子版記事「【日本ハム】新庄ビッグボス『151キロのフォーク、打てるかー』山本由伸に0封負け/一問一答」より)。