打者の手元で鋭く曲がる変化球

元メジャーリーガーの相手監督が「初めて見た」と言うようなフォークを投げるために、山本には意識していることがある。

「150キロのフォークを目指したというより、ちゃんと力を伝える方向が合った結果として150キロが出て、ちゃんと落差もある程度あってというのが狙いです。150キロのフォークが投げられるようになったのは、正しく投げたからだと思います」

正しく投げるというのは、自身の身体をうまく動かし、ホーム方向に対して力を真っすぐに伝えるということだ。結果、スピードと強さを備えた151キロのフォークが投げられた。

140キロ台後半で変化するカットボールも独特の軌道だ。多くの日本人投手は「高速スライダー」というようにカットボールにも一定の変化量を求める傾向にあるが、山本が投げるのはまさに英語で「Cut fast ball」と言われるような球種だ。

ストレートと同程度のスピードを維持したまま、打者の手元で鋭く横方向に曲がっていく。このカットボールの秘密について、私はたまたま知ることになった。

野球ボール
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ホームラン王が「打つのは難しい」

2019年に京セラドームでインタビューした際、肘への負担を考慮して、「今スライダーを投げるより、カットボールにしたほうが長く活躍できるという考え方の若手投手を見たことがない」と話を振ると、山本はカットボールについて語り出した。

「しかもそのカットボールも、たぶん投げ方としては全然一般的ではなくて。どう投げているかは言わないですけど。一般的なカットだと前でヒュッてひねるんですけど、それではなくて。そのカットボールより、負担がかからない投げ方を練習しています。今でも本当に求めているカットボールではないので、自由自在にボールが操れるようになりたいです」

説明を聞きながら思い出したのが、西武の山川穂高が話していた内容だ。

「見たことないカットボール。真っすぐに見える。腕の振りもいい。初対戦で、いいところに決まったら、打つのは難しい」2018年5月1日に初めて対戦した際のコメントが、同日配信の「スポーツ報知」電子版で紹介されていた(「【西武】山川、オリ山本に脱帽『見たことないカットボール…』」より)。

山本がカットボールをどうやって投げているのかを知りたくて、山川の「見たことない」という発言を咄嗟に繰り返すと、煙に巻きながらもヒントをくれた。

「一つ言えるなら、あまり手で曲げてないです」

この一言は、後から振り返れば重要なポイントだった。

「『どうやって投げているの?』とよく聞かれるんですけど、『ここをこうして』と教えてあげたとしても、その人の身体ではできなくて。自分の感覚だし、自分がここまでやってきた動作の練習があります。

基本的な動作に見えて、その積み重ねが本当に大事で、それで少しいいカットを投げられるようになったという感じです」