阿弥陀仏の前身「法蔵」

「阿弥陀仏の物語」は、阿難が釈尊の様子に異変を感じたところからはじまる。釈尊は、いつものように瞑想めいそうに入っていたが、その日は、特別に顔つきが光り輝いているように見えた。そこで阿難が問う。「いつもと違って、おすがたが特別に輝いているように見えますが、どうされたのですか」、と。そこで釈尊は、答える。「よきかな、阿難よ。あなたは衆生を憐れむがゆえに、私の顔つきの変化を問うたのであろう。阿難よ、汝がために新しい教えを説こう」、と。こうして、釈尊が自らの深い瞑想のなかで感得した「阿弥陀仏の物語」を、阿難に向かって開陳することになる。

その要点の一つは、阿弥陀仏の前身が「法蔵」という名の人間であった、ということにある。釈尊によると、「世自在王仏」という名の仏が活動していた時代のこと、一人の国王がいた。彼は世自在王仏の説法を聞いて、深い喜びの心を起こし、最高の悟りを目指すことになる。そのために、王位を捨て、国を捨て、出家した。そして、「法蔵」と名乗る。

水蓮の花
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今までになかった仏の国を

法蔵は、世自在王仏の弟子となり、自分もまた仏になり、今までになかった「仏の国」をつくりたい、そして、その国に生まれた者は、すべて仏になるようにしたい、と誓う。そして、師の世自在王仏に懇願する。「どうか私のために教えを説いてください。その教えにしたがって修行を重ねて、すでにある数多くの仏の国から選択して、もっとも優れた国を建立したいのです」、と。すると、世自在王仏は、法蔵の切なる願いにもかかわらず、「自分で考えよ」と応じる。そこで法蔵は、「せめて、すでにある仏の国々について、それらがどのような修行によって生まれたのかを聞かせてほしい、それを参考に修行するから」、とさらに願った。

すると世自在王仏は、その願いを誉め讃えて、「二百一十億」の仏たちの国を取り上げて、その国土に住む人々の善し悪し、国土の出来具合を、すべて目の前に現出させて見せた。世自在王仏は、法蔵が求める理想的な「仏土」を得るための方法を説くのではなく、仏土そのものをすべて提示することによって、法蔵が自ら考えて、新しい国づくりができる手がかりを与えようとした、といえる。