周囲に迷惑をかけても「憎めない」理由

以前、老人ホームで働く介護関係者の知人から聞いたのが、いつもスタッフに文句ばかり言っているきついおばあさんの話でした。常に人に当たり散らしてばかりいるので、スタッフの間ではあまり好かれていません。

では、昔からその人が、人から嫌われる人だったのか……というと、決してそんなことはありません。実はこの方は良妻賢母で子どもも立派に育てたようなしっかりした方だったのだと聞かされました。

一方、そのホームには、いつもニコニコしていてスタッフに愛されているおじいさんがいました。この方は、時々介護者に悪戯をするなど、とんでもないことをしでかす人だったそうですが、いつも笑顔で明るいため「憎めない」として、施設内でも人気者だったそうです。

そのおじいさんの若い頃の話を聞いてみると、浮気ばかりして、子どもたちからは全く好かれていなかったとか。ところが、かなり認知症が進んだ現在でも、いつもニコニコして多くの人から好かれていたのです。

真面目でしっかりしている人ほど要注意

この話を聞いたとき、私が抱いたのは、「人間は我慢しないで生きてきた人のほうが、歳を取ったときに憎まれない人になるのだろうか」という感想でした。

和田秀樹『90歳の幸福論』(扶桑社)
和田秀樹『90歳の幸福論』(扶桑社)

真面目な人やしっかりしている人は、ルールや決まり事に厳格で、「こうあるべし」という考え方に陥りがちです。特に、90代くらいになると、感情をコントロールする前頭葉をはじめとする認知機能などの影響もあるのか、その人本来が持っている性格がより一層強く出るようになります。

だからこそ、嫌われ者のおばあさんのように「いいお母さんであろう」「いい妻であろう」と我慢に我慢を重ねて生きてきた人は、歳を取ったときもその考えが脳に染みついているので、本格的に歳を取って、いざ楽ができるタイミングになってからも、自分や周囲に厳しい態度が表に出てしまうのでしょう。

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