年齢を重ねても脳の健康を守る方法はあるのか。精神科医の和田秀樹さんは「生き生きとした老後を手にしたければ、“老害の壁”に負けてはなりません。高齢者を否定する世間の同調圧力に負けて自制的な生き方をすると、脳が縮み、認知症になるリスクが高まってしまう」という──。
※本稿は、和田秀樹『老害の壁』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
高齢者に迫る「若い世代の理不尽な声」
これまで私は、60代、70代、80代の過ごし方について、たくさん本を書いてきました。身体的なことだけではありません。私の専門は老年精神医学ですから、心の問題も大きく扱っています。
具体的に言うと、精神面でも高齢者が生き生きと、いわゆる「老後」を過ごすにはどうしたらよいかについても語ってきたつもりです。
しかしその一方で、生き生きとした老後の生活を阻もうとする若い世代の理不尽な言動にたびたび接します。
たとえば、「年寄りの話は説教ばかりで頭にくる」「年金暮らしなのにぜいたくするな」「コロナに感染すると大変だから、外に出ないで家でおとなしくしていろ」など、まるで年寄りいじめのようなものばかりです。
実際は、ここまではっきりした言葉にはなっていないかもしれませんが、そのような世間の空気を強く感じるのです。
世間にはびこる「老害」という空気
「老害」という言葉もその1つです。
たとえば、高齢者が、コンビニのレジでお金を出すのに時間がかかったりして、レジの前に列ができたとします。すると、後ろのほうの若い人から「何もたもたしているんだ」などと罵声を浴びせられたりします。
この若い人はきっと「買い物にこんなに時間がかかるなんて“老害”だな」などと思っているに違いありません。
こんな空気がはびこると、高齢者は萎縮してしまいます。その結果、若い人から老害と呼ばれないようにしようと、高齢者はでしゃばらず、つつましい生活を強いられるようになってしまいます。